vol.19 藤田敏八監督生誕90年!神保町シアターで特集上映「神代辰巳と藤田敏八」開催!
2022.08.17(水曜日)

スタッフコラム「フォーカス」へ、ようこそ!当コラムでは、日活作品や当社が関連する事業などに従業員目線で"焦点(フォーカス)を当て" 様々な切り口でその魅力をお伝えします。vol.19は神保町シアターで8月27日(土)からスタートする、特集上映「生誕90年 藤田敏八 神代辰巳と藤田敏八」にフォーカスします。

神保町シアターで、この二人の監督をフィーチャーするのは初めてのことだと聞いて、神保町シアター支配人にお話をお聞きしてきました。「映画の見どころを上手く話せなくて」と申し訳なさそうにしながらも、言葉の端々には本特集への想いが詰まっていました!



 

【上映作品ラインナップ】
同じ時代を駆け抜けた2人の鬼才━
藤田敏八監督作品:八月の濡れた砂/帰らざる日々/野良猫ロック 暴走集団'71/修羅雪姫/十八歳、海へ/裸足のブルージン/リボルバー
神代辰巳監督作品:青春の蹉跌/櫛の火/アフリカの光/離婚しない女/嚙む女

 

インタビュー佐藤菜穂子さん:神保町シアター支配人
神保町シアターは本の街の名画座。古き良き映画をフィルム上映

―神保町シアターの編成コンセプトは何ですか。

佐藤 神保町シアターは今年7月で15周年を迎えました。オープン当初は新作映画の封切館でしたが、今は日本映画の旧作を上映する名画座として運営しています。神保町という土地柄、本が好きなシニアのお客様が多いので、文芸作品を中心にプログラムを組んでいます。

神保町には昭和レトロな喫茶店やレコード店もあり、最近では神保町を訪れる若い方も増えています。そこで6月から「U29ペア割引」を新設しました。性別問わず29歳以下のお二人ペアで鑑賞料金が2,200円になるという割引サービスです。この取り組みを通して、フィルム映画の素晴らしさを若い世代にも伝えていきたいです。

―印象に残っているプログラムは何ですか。

佐藤 鈴木清順監督特集と、芦川いづみ特集ですね。鈴木清順監督が90歳の時の記念上映で、ご本人がサプライズでいらして下さったことが印象に残っています。

芦川いづみさんはかなり以前に引退された女優さんですし、主役というよりヒロインの姉妹役などが多かったので、特集を組むにはマニアックかなと不安もあったのですが、蓋を開けてみたら大盛況でした。お客様のアンコールの声に応えるうちに、結果的に特集を4回も開催することになって。「神保町シアターと言えば芦川いづみ特集」と言っていただくこともあります。

特集が終わってもお客様から「もっと観たい」と電話や手紙を頂戴しましたし、世代を超えた人気ぶりに驚きましたね。

藤田敏八監督 生誕90年 特集「神代辰巳と藤田敏八」

藤田敏八(ふじたとしや)】(1932年1月16日-1997年8月29日)
1967年『非行少年 陽の出の叫び』で監督デビュー。青春映画の旗手として注目を集め、『ツィゴイネルワイゼン』などで俳優としても活躍した。今年、生誕90年&没後25年。


©日活

神代辰巳(くましろたつみ)】(1927年4月24日-1995年2月24日)
1968年『かぶりつき人生』で監督デビュー。『赫い髪の女』などロマンポルノの傑作を連発し、一般映画でも名作を残した。今年、生誕95年。


©日活

同時代に活躍した、二人の監督を見比べる試み

―藤田敏八監督と神代辰巳監督にスポットを当てた特集は初めてですね。

佐藤 藤田敏八監督も神代辰巳監督も、いつか特集をやりたいと思っていました。トークショーのゲストとして、かつての日活スタッフの方に来ていただく度に「パキさんやクマさんの特集はやらないの?」と聞かれることも多かったですし。今年、藤田敏八監督が生誕90年ですので、このタイミングでやろうと決めました。
※「パキさん」は藤田監督の、「クマさん」は神代監督の愛称。

―なぜ二人を並べて特集しようと思ったのですか。

佐藤 藤田監督と神代監督は年齢も近いし、監督デビューもほぼ同時期です。二人とも日活が一般作からロマンポルノに移行する時代の同じ空気を共有していて、それまでの日活映画の良い雰囲気を引き継いでいると思うんですね。そして共に1970年代の若者たちを描いた映画を撮りながら、そのアプローチは全く違っています。それを見比べる試みとして企画しました。神代監督のファンは神保町シアターにも多いので、この機会に藤田監督の作品もご覧いただきたいです。

―今回、神代監督のロマンポルノ作品が編成されていませんね。

佐藤 悩んだんですよ。ロマンポルノを入れるともっと大規模な特集になったのですが、最終的に外すことにしました。神代監督のロマンポルノは名作揃いなので、編成するとそちらに注目が集まってしまうと思って。今回はあくまでも藤田監督の作品をクローズアップしたい。藤田監督の映画を観て面白かったという人を一人でも増やしたいんです。

―藤田監督はもっと再評価されて欲しいですね。

佐藤 藤田監督の映画の面白さを、うまく説明できなくて困っています。『八月の濡れた砂』や『野良猫ロック』を若い人に説明すると「それは不良の話なんですか?」「それの何が面白いんですか?」と言われます(笑)。ストーリーを説明すると、若者たちがめちゃくちゃやっているだけの話になってしまうんですね。でもそのハチャメチャさに説得力があるというか、その時代を知らなくても、時代の空気に触れた気持ちになれる。本や音楽とは違った、映画でしか感じられない説得力があって、それが藤田作品の魅力なのかなと思います。

―画面から自由さが漂ってきますよね。本題に入るのは最後の30分くらいで、それまではみんなが延々と砂浜で戯れているだけだったりする。でもその雰囲気が素晴らしくて、画面から目が離せないんです。

代表作や文芸作、これまで上映していなかった作品を編成

―藤田監督のラインナップの中で、日活作品は5本を編成されていますね。

佐藤 代表作や文芸作品、初めて藤田監督の映画を観る方にも取っつきやすいものを選びました。『八月の濡れた砂』は有名作ですし、『リボルバー』には沢田研二さん、『野良猫ロック 暴走集団’71』は原田芳雄さんという人気のある役者さんが出演しています。『十八歳、海へ』は中上健次さんの原作ですが、これまで上映する機会がなかったので編成しました。逆に「秋吉久美子三部作」は当館では上映機会が多いので今回は外しています。
※「秋吉久美子三部作」:『赤ちょうちん』『妹』『バージンブルース』

―『野良猫ロック 暴走集団’71』はGSバンド「モップス」の演奏シーンもあり、サブカル的にも貴重です。『リボルバー』の沢田研二さんはくたびれた中年刑事役なのに、何とも言えない色気を感じますね。

佐藤 実は、今回の特集で最も集客があるのは、『リボルバー』じゃないかと思っています。


[写真左]『野良猫ロック 暴走集団’71』(1971年 監督:藤田敏八 出演:原田芳雄 藤竜也 梶芽衣子 地井武男)
[写真右]『リボルバー』(1988年 監督:藤田敏八 脚本:荒井晴彦 出演:沢田研二 柄本明 尾美としのり)

―『十八歳、海へ』は永島敏行さんと森下愛子さんの心中ごっこを通して、青春のあやうさが伝わってきます。二人が海に入っていくシーンで、森下愛子さんが「あっ、今、胸に水が来ました!縮み上がります!」と実況中継するのが強く印象に残ります。中岡京平さんの城戸賞受賞作「夏の栄光」を映画化した『帰らざる日々』も、思春期の痛みを描いた名作ですね。根岸季衣さん(本作では「根岸とし江」名義)が自転車で転びながら、永島敏行さんを追いかけていくシーンにはグッときます。

佐藤 この作品の根岸季衣さんにはびっくりしました。ああいう情熱的な役を若い頃にやってらっしゃったんだなあと。


[写真左]『十八歳、海へ』(1979年 監督:藤田敏八 原作:中上健次 出演:森下愛子 永島敏行 小林薫)
[写真右]『帰らざる日々』(1978年 監督:藤田敏八 原作:中岡京平 出演:永島敏行 江藤潤 竹田かほり)

ー『帰らざる日々』『十八歳、海へ』『噛む女』の3作に永島敏行さんが出演されています。彼にしかできない役が、この時代にはありましたね。

佐藤 当時の等身大の若者ですよね。ちょっとあか抜けないけど、ものすごく繊細なものを持っている感じ。原田芳雄さんやショーケンさんはカッコいいけれど、永島敏行さんの普通っぽさは人間味があって良いんですよね。

―神代監督『噛む女』の永島敏行さんはそれまでの朴訥な青年役とはイメージが違いますね。AV制作会社の社長役で、いかにも業界人。浮気相手からの無言電話が鳴り響く中、奥さん役の桃井かおりさんがキッチンで生肉を叩き続けるシーンもとても怖かったです。

佐藤 『噛む女』は神代監督のフィルモグラフィの中であまり注目されることがないですよね。この機会にご覧いただきたいと思って編成しました。


『噛む女』(1988年 監督:神代辰巳 脚本:荒井晴彦 出演:桃井かおり 永島敏行 余貴美子 平田満)

―今回の特集で一押しの作品は何ですか。

佐藤 『八月の濡れた砂』です。藤田監督の映画をきちんと観なければという気持ちになったのは、この作品があったからだと思います。
 


『八月の濡れた砂』(1971年 監督:藤田敏八 出演:村野武範 広瀬昌助 テレサ野田 原田芳雄)

―『八月の濡れた砂』は、日活がロマンポルノに移行する前の最後の一般映画ですけれど、青春の終わりと夏の終わりがシンクロして、ラストの銃声で何かが断ち切られてしまったような、そんな切なさが残りますね。藤田監督には夏と海のイメージがありますが、まさに夏の終わりに観るのにふさわしい映画だと思います。

佐藤 初めて観た時に、日活の有名な俳優さんが出ていないことにも驚きました。でもそれが却ってリアルな若者のようで、生々しくて新鮮に感じて。セックスと暴力に明け暮れる登場人物には共感できないのに、なぜか不思議と魅力的で、彼らに惹きつけられてしまうんです。今の若い方には理解できない青春模様かもしれませんが、とにかく観ていただきたい。観たらきっと「何かよくわからないけど、すごいものを目撃した」という驚きがあると思います。ぜひスクリーンで体感していただきたいです。

(インタビュー了 vol.19 担当:山田 取材協力:太田慶)

※記事中の作品画像は全て©日活

神保町シアター「生誕90年 藤田敏八 神代辰巳と藤田敏八」上映情報

【期間】2022/8/27(土)~9/16(金)

【上映スケジュール】
https://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/program/kumafuji.html#top

【料金】(当日券のみ)一般1,300円/シニア1,100円/学生 900円/U29ペア割引2,200円
※「U29ペア割引」…性別問わずお二人とも29歳以下のペアに適用される割引です。
(チケット購入時に年齢を証明できるものをご提示ください)

毎週水曜ファン感謝デー 1,000円均一
毎月1日映画サービスデー 1,000円均一
★有料入場5回で1回無料、お得なポイントカードサービス実施中!
https://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/index.html#pointcard

スタッフコラム「フォーカス」Vol.17「藤田敏八監督『リボルバー』裏話」もお読みください。
https://www.nikkatsu.com/focus/vol17.html

【作品データベース】
八月の濡れた砂
https://www.nikkatsu.com/movie/21266.html
帰らざる日々
https://www.nikkatsu.com/movie/25608.html
野良猫ロック 暴走集団’71
https://www.nikkatsu.com/movie/21236.html
十八歳、海へ
https://www.nikkatsu.com/movie/25663.html
リボルバー
https://www.nikkatsu.com/movie/26600.html
噛む女
https://www.nikkatsu.com/movie/26563.html
 

*スタッフコラム「フォーカス」とは?詳しくはコチラ