スタッフコラム「フォーカス」へ、ようこそ!当コラムでは、日活作品や当社が関連する事業などに従業員目線で"焦点(フォーカス)を当て" 様々な切り口でその魅力をお伝えします。今回vol.21では、<日活110周年記念 Blu-ray&DVDシリーズ20セレクション>にフォーカスします!
【⽇活110周年記念 Blu-ray&DVDシリーズ 20セレクション】
⽇本で最も⻑い歴史を誇る映画会社の⽇活が、創⽴110周年を記念して永遠の名作20タイトル(Blu-ray10タイトル、DVD10タイトル)を、12月2日、1月11日、2月3日と3か月連続でリリースしました。「幻の映画」と呼ばれる『忠次旅⽇記』や、カンヌクラシックで世界が発⾒した⽥中絹代監督の『月は上りぬ』など、注目作が目白押しのラインナップになりました。
●Blu-ray10作品は、⽇活110周年の歴史に残る名作をセレクションしています。貴重な初ソフト化作品や4Kデジタル復元版など、全てが初Blu-ray化です。
<Blu-rayリスト>
キューポラのある街/泥だらけの純情/神々の深き欲望/丹下左膳餘話 百萬両の壺/河内山宗俊/嵐を呼ぶ男/陽のあたる坂道/月は上りぬ/乳房よ永遠なれ/忠次旅日記&長恨
●DVD10作品は、日本映画を語るうえで外せない日活スターが出演した作品をセレクションしています。こちらも全て初DVD化です(「青春の鐘」は初HDDVD化)。
<DVDリスト>
若い東京の屋根の下/華やかな女豹/海の情事に賭けろ/エデンの海/気まぐれ渡世/成熟する季節/星と俺とで決めたんだ/知と愛の出発/波止場の無法者/青春の鐘
◎詳しくはコチラ↓
⽇活110周年記念 Blu-ray&DVDシリーズ 20セレクション
日活ファンや日本映画ファンにはたまらないラインナップになっていますが、発売までどのような経緯があったのでしょうか。この企画の担当者にお話を聞いてきました。そこには、映画ファンでない方にも見てもらいたいという意味や、110周年という歴史の中で改めて感じた映画に対する熱い思いが込められていました。
インタビュー:金山功一郎さん(日活 映像事業部門 版権営業部)
―今回初めてBlu-ray化、DVD化された作品が多くあります。20タイトルはどのように選考しましたか?
まず、堅苦しくなく、肩の力を抜いて、日活に興味をもってもらいたいという思いがありました。日活に興味のある人もない人も、未来に向けて日活映画をナビゲートする窓口になるものを選びたい、と。
そして110周年として今見てもらいたいタイトル、これを機に興味の幅が広がっていくようなタイトルを集めました。定番の作品もあるし、今まで全く注目されていなかった作品も敢えて選んでいます。
―今回特に注目して欲しい作品は何ですか?
特に挙げるとすれば、Blu-rayからは『忠次旅日記』、DVDからは『知と愛の出発』です。
いつもそうなのですが、パッケージ発売の選考の際はいちから日活の全作品リストを見て選んでいきます。その膨大なリストを見ながら毎回痛感するのは、我々日活社員が日活の歴史だと思っているものは、ほんのごく一部だということです。
よくよく思いを馳せていくと、日活という会社は日本映画史とは切っても切れない重要な歴史をもっている。その中で今回、優れた歴史的価値とポテンシャルをもつ『忠次旅日記』に白羽の矢が立ったのです。
『忠次旅日記』 復元/提供:国立映画アーカイブ
『忠次旅日記』
監督:伊藤大輔 主演:大河内傳次郎
映画史上の金字塔と称され、1959年には『キネマ旬報』の「⽇本映画六⼗年を代表する最⾼作品ベスト・テン」第1位にも選ばれた。長らくフィルムが紛失し、「幻の映画」と言われていたが、1991年にプリントが発見され、2011年に国立映画アーカイブにてデジタル復元された作品。
―「幻の映画」が初めてソフト化されるということで、そこにはどの様な経緯があったのでしょうか?また、発売前から多くの問い合わせがあり、発売数も好調と聞きました。
ありがたいことに、多くの反響を頂いています。パッケージの売り上げについても予想よりもとても好調です。
今、映画はデータとして扱われることが多いように思います。しかし、私は映画とはそもそも「物」だと思うのです。音楽業界もそうです。サブスクとしてデータで音楽を聴くことが主流になる一方で、改めてアナログのレコードが注目される機会が増えています。
つまりデータとしてではなく、実際手に触れることができる「物」としての愛着は今も残っていて、そこにまだまだ面白い要素が多くあるように思います。
『忠次旅日記』は映画としての評価は高かったのですが、残念ながらフィルムが残っていませんでした。しかし、ある時広島の民家でフィルムが発見されるのです。「物」として生き残っていたのです。それを国立映画アーカイブさんが修復されて、今回110周年をきっかけに、日活の元に戻ってきたのです。
―幻とまで言われた貴重な作品が自宅で見られる。感慨深い思いがありますか?
そうですね、110周年の1作品として相応しい作品だと思いますし、日活以外のところで復活を遂げた作品を、110周年のラインナップに加えさせて頂くことが重要で意義があると思います。
国立映画アーカイブの担当の方が、「日活110周年を盛り上げられるなら」「映画ファンに見てもらえる機会が増えるなら」ということで協力して頂いた。その熱い思いがあってこそのソフト化になります。
日活110周年といっても、日活以外の様々な映画会社、映画人の協力が必要不可欠です。日本で最も長い歴史をもつ映画会社である日活は、それはつまり日本映画の歴史ということですから。
『忠次旅日記』 復元/提供:国立映画アーカイブ
―特典として弁士・坂本頼光さんによる音声が収録されています。これもまた貴重で面白い試みだと思います。そこに至る経緯やきっかけは何だったのでしょうか?
実は初めから予定があったわけではないのです。しかし、日活の窓口となる作品として多くの人に観てもらうには、無声のものをそのまま見るというのはハードルが高いかもしれないと思いました。
そこで、Blu-ray(いわゆる「物」)の価値として、無声でも見られるし、弁士さんの音声付きでも見られるようにしました。更に、音楽はマツダ映画社さんにお願いしました。
*弁士・坂本頼光さん
―弁士さんの収録はどのような様子でしたか?また、仕上がりはいかがですか。聴きどころなども教えてください。
弁士さんは全ての役を自分で役作りして、演じ分けます。今回はナレーションも含めて坂本さんの解釈で行って頂きました。イベントや上映では一度始まれば止まらず進行していきますが、収録となると、坂本さんは自分で自分にNGを出すのです。多くの引き出しをもつ弁士さんだからこそ、収録となると細部へのニュアンスに徹底したこだわりがあり、納得がいくまで何テイクも重ねていくという…大変な現場でした(笑)。
例えば落語家にはそれぞれ個性があって同じ話でも違って聞こえるように、弁士さんも同様だと思いましたね。
今回坂本さんにお願いしてよかったのは、坂本さんの解釈によって坂本さんが作る世界観で送る『忠次旅日記』が完成できたことです。また、マツダ映画社さんの音楽と合わせて聞けるというのもBlu-ray版ならではの楽しみ方だと思います。
©日活『知と愛の出発』
『知と愛の出発』
監督:斎藤武市 主演:芦川いづみ
綺麗ごとに留まらず、同性愛など当時でもセンセーショナルな題材に言及し、芦川いづみと川地民夫の初々しいコンビが体当たりで挑んでいる。公開時はコニカラーというシステムでカラー作品として公開されたが、復元が難しく、長らくモノクロ映像のみでの視聴だった。今回が初めてカラー復元版としてのDVD化になる。
―カラー復元版としてのDVD化の背景には技術の進歩があると思いますが、どういった経緯がありましたか?
『知と愛の出発』は数年前からDVD化を検討していたのですが、二つの課題がありました。一つはモノクロマスターしかないということ。もう一つはマスターに繋ぎ間違いがあるということ。素晴らしい作品なので、この二つの課題をどうにかクリアしたいという思いがその時からありました。それが今回、株式会社クープさんから別件で新技術の提案があったんです。
日活だけでは簡単にはできませんが、ラボとの提携によりこの作品を蘇らせることができるかもしれないと考え、各方面の調整をして行きました。『忠次旅日記』の国立映画アーカイブさんと同様、日活だけではできない、他の方の協力があってできたものなのです。
脚本に沿って場面を繋ぎ直し、カラー化については新技術を用いました。そういったフィルム修復作業には様々なハードルがあります。ノイズが入ったり鮮明でなかったり、今の段階でどこまでフォローできるのか、できているのかは常に不安がありました。
それでも新技術にチャレンジすることで色々な発見があるかもしれない。チャレンジできたことは大きな一歩であると思います。
©日活『知と愛の出発』
―カラーで見られる魅力はどんなところでしょうか。また、どんなところを見てほしいでしょうか。
新技術を使うことで、劇場公開以来カラーで見られなかった作品を何とか制作者が望んでいたかたちで見てもらいたいという思いがありました。ただ、技術がどうこうというよりも、素直にカラーの映像を楽しんで欲しいと思います。
配信などではモノクロ映画は視聴されにくい傾向があります。新しい映像が溢れる中でわざわざモノクロ映画を選ぶ理由がないということでしょう。カラー化するということは見てもらえる可能性が増えることに繋がると思います。ただ一方で、モノクロ映画にはカラー映画には無い独自の美しさがあると思います。どちらが上ということではなく、それぞれに良さがある。
『知と愛の出発』をカラーにするのも、モノクロ版に価値がないということではないのです。モノクロとカラー、映画には両方の魅力があるということを伝えたいです。
―冒頭の「窓口」という言葉に繋がりますね。
古い映画、過去の映像というのは、目まぐるしく進化していく技術のなかで、一部のファンには意味があっても、一般の方はそれほど惹かれないかもしれない。ただ、見る機会というのは作りたいと思うのです。
自分の知りたい情報がたやすく手に入る今、世界が広がったように見えて、実は狭くなっている可能性もあります。いつのまにか自分の知りたい情報だけの中で生きているかもしれないということです。でも本当は、自分の知らない世界にこそ自分の好きなものがある、という可能性があるようにも思います。
『知と愛の出発』のカラー化によって、逆にモノクロ版も見てもらいたいというのが正直な気持ちですね。そのうえで、どちらが好きかは人それぞれ、見た方に判断してもらえれば一番良いと思います。
まあ、とにかく麗しい芦川いづみさんを見ていただきたい、ということにつきるのですけど。
©日活『知と愛の出発』カラー復元版
◎モノクロとカラー映像を比較した特別動画はコチラ↓
『知と愛の出発』のカラー復元映像
―最後に、記事を読んでくれた方にメッセージがあればどうぞ!
同じ作品でビデオもDVDもBlu-rayも持っている方がいます。他人からすれば一見無駄に見えるかもしれませんが、本人にとっては全然無駄ではない。これこそが楽しさなんですよね。
配信などで見ることと、映画を「物」として買うということの楽しさは全く違うものだと思います。映画をソフトとして所有する、素晴らしい作品を手の届くところに並べて置く、そういった楽しさは、効率よく映画を見ることだけでは得られない楽しみがあります。
今回の110周年で取り上げた20作品は、そういった楽しみを見つけるきっかけになってくれたらいいと思います。このタイトルのうち一つでもフックになってくれれば良いですし、逆にこれじゃないと思ってくれても良いのです。見ようとした人、見てくれた人が、日活110周年に相応しいものを、自分の好きなものを、決めてくれれば良いと思っています。
映画ファンやそうでない方が、自分の世界を広げる窓口として、ガイドブックとして、この20作品が存在してくれたら嬉しいです。
(vol.21 担当・たなかともひろ)
■■リンク■■
●⽇活110周年記念 Blu-ray&DVDシリーズ 20セレクション
●『知と愛の出発』のカラー復元映像
●『忠次旅日記』パッケージ情報
●『知と愛の出発』パッケージ情報