父親世代の石原裕次郎の日活時代を私は知らない。小さい頃、母親は裕次郎を見ては乙女のようにはしゃいでいて、私はよくその偉大さを聞かされたが、子供の私にはピンとこなかった。月日が経ち、日活時代の裕次郎作品を観る機会が増えたのを機に裕次郎が身近になってきた。小林旭、浅丘ルリ子、北原三枝、芦川いずみ、赤木圭一郎、宍戸錠など燦然と輝く日活のスターの中でも、裕次郎は突出した輝きを放っていた。「大スター」の価値がこの時はじめてわかった。一番好きな映画は「赤いハンカチ」だ。裕次郎自身が歌う哀愁漂う歌もあいまって、昭和への思いが募る。公開されたのは昭和39年(1964)、終戦から19年たち、日本経済は立ち直っているが、作中の日本の風景はまだまだ復興の途中といった感じがして懐かしい。昭和に生まれ昭和で去った、まさに「昭和の申し子」裕次郎への思い故か、実らなかった作中の愛ゆえか、何度見てもグッとくる。