トランスジェンダー男性であるというアイデンティティを反映した独創的な作品作りで国内外から大きな注目を集める期待の若手・飯塚花笑監督の最新作『ブルーボーイ事件』の公開をいよいよ今週末2025/11/14(金)に控え、11/10(月)に行われた外国特派員協会記者会見に飯塚花笑監督と主演の中川未悠さんが登壇しました。
本作では、1960年代に実際に起きた “ブルーボーイ事件” を描くにあたり当事者キャスティングが行われ、トランスジェンダー女性である中川未悠さんが演技未経験ながら主演に抜擢されました。
トランスジェンダーの俳優が活躍する機会がいまだ限られている日本映画界において大きな挑戦であり、意義深い一歩となりました。会見では、外国人記者からの質疑応答が活発に行われ、作品に込めたメッセージやキャスティング、また多様性の表現について語りました。

会場には大勢の外国人記者が来場。この日集まった記者は、渋谷区のパートナーシップ制度導入をはじめとした、日本のLGBTQ+コミュニティについての関心も高いようで、ふたりにはそうした社会的な質問も多く寄せられました。
そんななかで、日本のLGBTQ+コミュニティについて今後オープンになっていくと思いますか?という質問があがると、飯塚監督は「昨今、メディアの中で性的少数者の存在が取り上げられる機会が増えてきましたが、その一方でバッシングや、バックラッシュ(揺り戻し)的な動きがあるというのも事実です。そういったなかで、これはいち個人としての願いになりますが、わたしたちはエンターテインメントの分野に関わっている人間なので、非常に肯定的に、それはそのいい部分だけを描くのではなく、問題提起もしていくべきなんじゃないかなと捉えています」と現状認識について返答。
そして「テレビでもLGBTQ+という言葉であったり、多様性という言葉をよく耳をするようになりました」と語る中川さんも、「わたし自身、友人や家族から『テレビでこういう特集をやってたよ』とか、LGBTQ+の人たちを特集する番組について聞く機会も増えているので、どんどん進んでいると感じます」と語りました。

©2025 『ブルーボーイ事件』製作委員会
本作の舞台となる1960年代と比べて、LGBTQ+をめぐる環境は変化を続けてきています。そんななかで「LGBTQ+当事者の監督、キャストによってつくられた本作が今後、どのような影響を及ぼすと思うか?」という質問も。
それに対して、本作がシネコンやミニシアターなど、全国70館以上で公開される規模の商業映画でありながらも、当事者の手によってつくられた作品である、という本作の意義を強調した飯塚監督。
「わたし自身、いち当事者として映画を観る時に、幼少期から映画の中に自分のロールモデルとなるような存在を探してきたのですが、その時にどうしても当事者性を感じられなかったり、表現の違和感というものをずっと感じていました。ですから今回の作品が当事者による表現の見本になる、というと大げさかもしれないですが、こういったつくり方があるよというような、ひとつの成功体験になればうれしいなと考えております」とコメント。
さらに「そのためにはヒットしないと成功にならないので、ぜひ皆さんにもご支援していただきたいなと思っております」と呼びかけ会場の笑いを誘う一幕も。

また、本作の裁判シーンにおいて、主人公のサチが証言台に立ってまっすぐカメラに向かって証言しているところは、劇中に登場する裁判官をはじめとした人々に向けて話しているのと同時に、「実はスクリーンを見つめる観客に対しても語りかけていたのではないか?」という記者からの指摘も。
その鋭いコメントに思わず笑顔を見せた中川さんは、「わたしはお芝居が初めてだったので、カメラを向けられるということがものすごく恐怖でした」と前置きしつつも、「でも脚本をいただいて、あのセリフを読ませていただいた時に、やはり自分と重なる部分がたくさんありました。あれはサチのセリフではありますが、中川未悠自身の言葉としてもしっかりと伝えたいと思いました。この映画が何かを変えるきっかけになると思っているので、もちろんカメラに向かって言っているのですが、スクリーンの向こうで観てくださっている方に向けて、わたしとサチの思いを投げかける、という気持ちで撮らせていただきました」と語りました。

©2025 『ブルーボーイ事件』製作委員会
さらに今後、LGBTQ+の人々が暮らしやすくなるために「どんな法律があれば良いと思うか?」という質問も。
それにはまず飯塚監督が「法律が新たに生まれるというよりも、今、わたし自身が問題点として思っているのが、性同一性障害の特例法です。これは肉体の一部を変えないと戸籍が変更できないというような要項になっているのですが、この点に関しては、いち個人としても、なるべく早く改善をしてもらいたいと思っています」と返答。
続く中川さんも「わたしの場合は、自分の体に男性器があるということが違和感だったので。性別適合手術をして戸籍を変えるところまでしているのですが、それはあくまで個人のアイデンティティなので、手術をしなくてもいいという方もいらっしゃいますし、個人の意見を尊重した法律というか、決め事ができたらいいなと思います。もちろん身体を変えたくても持病があったり、何らかの理由で性別を変えられないという方々もいらっしゃるので。そうした方々にも寄り添うような形の法律ができれば、皆さんがより良く過ごしやすくなるんじゃないかなと思っております」。
また中川さんは「今後も俳優業を続けていきたいと思いますか?」と問われると、「わたしはこの作品を通じてお芝居の難しさや楽しさに気づいたので、今後も続けていきたいと思います。性的マイノリティの方々はコメデイのように扱われていたり、笑いと捉えられてしまうこともあるので、わたし自身が俳優業を続けてることによって誰かの光になれたらいいなと思いますし、そういった悩みを抱えている方々から目指そうと思ってもらえて世の中も変わっていったら良いと思います」と答えました。

本作の裁判シーンでは、裁判官がサチに「あなたは幸せですか?」と問いかけるシーンがあります。そこでなんと答えたのかは、映画を観ていただきたいところですが、そのセリフに込めた意味を質問された飯塚監督は、「この一言のために映画を作ったと言っても過言ではありません」と力強く語り、「わたし自身、女性として生を受けて、とにかく必死に生きやすい環境を求めて男性に移行しました。しかしその結果、今度は男性という鎧を着なければならず、苦しみましたし、さらにトランスジェンダーらしさという規範にも苦しみました。結局、自分はどこに着地すれば幸せになれるのか、という疑問を抱えて今も生きています。そのなかで見つけた答えは、僕自身の幸せは、僕自身のものでしかないということ。それは一般的に思う幸せとは少し違った形かもしれない。でも幸せです。そのメッセージを伝えたくてこの映画をつくりました」と。
一方、このセリフについて中川さんは「あの言葉を聞いた時、きっと皆さん一人ひとりが『幸せって何なんだろう』と考えさせられたと思うんです」と切り出すと、「その答えはわたしにもまだ見つかっていません。きっと幸せは人それぞれで、だからこそ個性や自分らしさがあると思うんです。あのセリフに明確な答えはないかもしれませんが、皆さんの心に寄り添ってくれる質問だと思います」とコメント。そのうえで「もし今、幸せですか? と聞かれたとしたら、『ブルーボーイ事件』を皆さんに観ていただけることが、私の幸せです!」とにこやかに会場に呼びかけました。

多様性へのバックラッシュの嵐が国内外で吹き荒れる現代に、差別や偏見についてもう一度問いかける『ブルーボーイ事件』は、まもなく公開です。ぜひ、映画館のスクリーンでご堪能ください。
映画『ブルーボーイ事件』2025年11月14日(金)全国公開!
作品紹介
1965年、オリンピック景気に沸く東京で、街の浄化を目指す警察は、街に立つセックスワーカーたちを厳しく取り締まっていた。ただし、ブルーボーイと呼ばれる性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受け、身体の特徴を女性的に変えた人々たちの存在が警察の頭を悩ませていた。戸籍は男性のまま、女性として売春をする彼女たちは、現行の売春防止法では摘発対象にはならない。そこで彼らが目をつけたのが性別適合手術だった。警察は、生殖を不能にする手術は「優生保護法」(*現在は母体保護法に改正)に違反するとして、ブルーボーイたちに手術を行っていた医師の赤城(山中 崇)を逮捕し、裁判にかける。同じ頃、東京の喫茶店で働くサチ(中川未悠)は、恋人の若村(前原 滉)からプロポーズを受け、幸せを噛み締めていた。そんなある日、弁護士の狩野(錦戸 亮)がサチのもとを訪れる。実はサチは、赤城のもとで性別適合手術を行った患者のひとり。赤城の弁護を引き受けた狩野は、証人としてサチに出廷してほしいと依頼する。

©2025 『ブルーボーイ事件』製作委員会
『ブルーボーイ事件』関連ニュース
*東京国際映画祭の模様
*本予告&場面写真解禁
*本ビジュアル解禁&公開日決定
*公開決定

★2025年11月14日(金)全国公開★
知られざる歴史がここにある。
監督:飯塚花笑
出演:中川未悠 前原 滉 中村 中 イズミ・セクシー 真田怜臣 六川裕史 泰平 渋川清彦 井上 肇 安藤 聖 岩谷健司 梅沢昌代 / 山中 崇 安井順平 / 錦戸 亮
配給:日活/KDDI