vol.23 鈴木清順監督生誕100周年!鈴木清順監督が使用した、書き込みだらけの台本を読み解く!!
2023.11.02(木曜日)

スタッフコラム「フォーカス」へ、ようこそ!当コラムでは、日活作品や当社が関連する事業などに従業員目線で"焦点(フォーカス)を当て" 様々な切り口でその魅力をお伝えします。

「鈴木清順生誕100周年記念シリーズ」のBlu-ray ボックスが発売決定。第1弾「セイジュンと男たち」が2024年1月10日、第2弾「セイジュンと女たち」が2024年3月6日にリリースされます。ボックスには、第79回ヴェネツィア国際映画祭クラシック部門で最優秀復元映画賞を受賞した『殺しの烙印』[4Kデジタル復元版]や、初ソフト化作品『らぶれたあ』[4K版]も収録され、100周年を飾るにふさわしい内容となっています。

さらに特筆すべきはその特典内容。なんと鈴木清順監督が実際に使用した直筆の書き込み入り台本を、部分的に復元しブックレット化しているのです。書き込みは膨大で読み取ること自体が難しいのですが、これを清順映画研究の第一人者・上島春彦氏が丁寧に解読し、ブックレットで解説しています。

そこで今回の「フォーカス」では、『けんかえれじい』『殺しの烙印』『野獣の青春』等の台本解読を終えた上島氏にインタビュー。台本の詳細な書き込みを読み解くことで明らかになった、清順監督の制作の軌跡に迫ります。

鈴木清順監督が使用した、書き込みだらけの台本を読み解く!!


今回、ブックレットのために解読した、鈴木清順監督が使用した台本の数々。『殺しの烙印』は『殺しの墓標』、『野獣の青春』は『暗の世界は俺にまかせろ』のタイトルになっている。(『素ッ裸の年令』『らぶれたあ』は台本の存在が確認できなかったためブックレットには未収録。)


鈴木清順監督使用『けんかえれじい』台本の一頁。ページの余白全体に万年筆やボールペン、鉛筆で重層的に書き込みがしてあるのがわかる。最終的にカットされたセリフやシーンも残っている。(※ブックレットはモノクロ収録となります。)

 

インタビュー上島春彦氏(映画評論家。圧倒的スケールで清順作品を読み解く『鈴木清順論 影なき声、声なき影』(作品社)等の著書がある。)

『けんかえれじい』はページ毎に脚本が直されていた

『けんかえれじい』はもともと新藤兼人の脚本ですが、清順が書き直したことは広く知られています。鈴木清順のエッセイ「鈴木清順 けんかえれじい」(日本図書センター)の中で新藤脚本と清順脚本(コンテ)を併載しているので、それを読むとかなり書き直されていることがわかるんですよ。ところが今回、脚本現物を読んでみると、実際はほとんどページ・バイ・ページで直されていた。つまり止むを得ないことなんだけど、あまりにも直しの量が多くて解読しきれないものだから、エッセイにはほんの一部の直ししか掲載されてないんですね。

新藤脚本を気に入らなかった清順は、こんな脚本では撮れないとはっきり語っていて、それがどういう意味なのか、これまでわかりませんでした。でも書き込みを読むと清順の不満の理由がよくわかる。だから今回、脚本をそのままの形で見られることはすごく意義があります。


『けんかえれじい』台本の一頁。有名なピアノのシーンが大幅に改変されている。「ピアノを一もつで叩く」の書き込みもある。

清順脚本には北一輝と杉田という男が登場しますが、この二人は新藤脚本にも鈴木隆の原作にも出てきません。オリジナルに無い二人の人物を新たに創造したのはある種の好対照というか、北一輝は伝説的なカリスマとして、一方の杉田は主人公・キロクの普遍性を強調する意味だったのでしょう。実際の映画では北一輝も杉田も登場シーンは少ないですが、脚本上はもっと多いのです。このことから清順が二人に相当深い意味を込めているのがわかります。しかし映画にする時はあえてサラッと流すような形で、新たにもう一度直しているんですね。脚本の直し方自体にも二重性、三重性があることが見て取れます。


『けんかえれじい』(1966年 出演:高橋英樹 浅野順子 川津祐介 宮城千賀子 加藤武

『殺しの烙印』には主題歌が3つ存在していた

『殺しの烙印』の脚本は具流八郎(※注:鈴木清順らの脚本グループ)がメインで作ったものだから、脚本自体は直しがあまり無いんですよ。でも面白い発見がありました。脚本のスタッフリストの最後に萩原朔太郎の「國定忠治の墓」の一節がメモ書きされているんです。また、脚本のラストページにはモノローグ風の詩が書かれています。両方とも実際には使われなかったのですが、このことから考えると『殺しの烙印』は清順の頭の中では文学的な映画なんですね。映画を作っていく過程で文学性をオミットし、アクションの方向に引き寄せていったことがわかります。

『殺しの烙印』は主題歌を3つ作っていたという発見もありました。脚本に3つの主題歌が載っているのです。一つは「もう一人の殺し屋」というタイトル。二つ目は「三人の殺し屋」。これは大和屋竺が歌う「殺しのブルース」として使われました。もう一つはタイトルがついていません。タイトルは無いけれど主題歌であることが詩の形からわかります。これまで3つの主題歌の存在は知られておらず、今回脚本を読んで初めてわかったことです。


『殺しの烙印』(1967年 出演:宍戸錠 南原宏治 真理アンヌ 玉川伊左男 小川万里子)

台本の詳細な書き込みには、清順映画の制作の謎が秘められている

脚本にイメージキャストが載っていることも注目です。『殺しの烙印』では全然違う人たちの名前があがっているんですよ。例えば、南原宏治が演じた殺し屋ナンバーワンには伊藤雄之助、芥川比呂志、仲谷昇の名前が並んでいて、南原宏治に落ち着くまでに様々なイメージを考えていたことがわかります。

『野獣の青春』には本来、渡辺美佐子の顔を剃刀でスダレのように切り裂くシーンが存在していたと言われています。このシーンは最終的にカットされたので永遠に観ることは叶わないのですが、脚本現物にはそのシーンのカット割りがメモ書きで残っています。最終的にカットされたセリフやシーンが書き込みとして残っているので、完成版のシナリオ採録を読んだだけではわからない、もっと違う読み方ができるのが脚本解読の面白さと言えますね。


『野獣の青春』台本の一頁。顔をスダレのように傷つけるシーンが残されている。

清順映画の脚本に書き直しや書き足しが行われていたことは、これまでも伝説的に語られてきました。けれども実際どのように脚本が変えられたか、今日までほとんど明らかにされてこなかったわけです。今回、清順監督のご遺族の厚意により脚本を読ませていただきまして、膨大な書き込みを通して、初めて清順監督の真意というか、一つの解釈が成り立つようになりました。脚本の書き込みから清順を研究することは、これまであまり行われてきませんでしたが、清順研究史的に極めて高い価値があると言えるのではないでしょうか。


『野獣の青春』(1963年 出演:宍戸錠 渡辺美佐子 川地民夫 香月美奈子 金子信雄)

(インタビュー了 担当:山田) ※記事中の画像は全て©日活

「鈴木清順生誕100周年記念シリーズ」Blu-rayボックス封入特典 限定ブックレット

鈴木清順監督が使用した台本を部分的に復元し、全52P装丁でブックレット化。清順映画研究の第一人者・上島春彦氏が、Blu-rayボックス収録作品の脚本を読み解く!実際の脚本ページの復元写真と上島氏の丁寧な解説により、清順映画の制作の軌跡と秘密が明らかに...!(※『素ッ裸の年令』『らぶれたあ』は台本の存在が確認できなかったため未収録となります。)

※その他特典ディスクの収録内容は以下をご覧ください。

「鈴木清順生誕100周年記念シリーズ」Blu-ray ボックス
★其の壱「セイジュンと男たち」2024年1月10日発売!
★其の弐「セイジュンと女たち」2024年3月6日発売!

Blu-ray ボックス 其の壱 「セイジュンと男たち」
収録内容:Blu-ray6ディスク(7作品)&特典ディスク(DVD)&限定ブックレット
収録作品:『殺しの烙印』[4Kデジタル復元版](1967年)/『けんかえれじい』(1966年)/『野獣の青春』(1963年)/『俺たちの血が許さない』(1964年)/『勝利をわが手に-港の乾杯-』(1956年)/『素ッ裸の年令』(1959年)/『らぶれたあ』[4K版](1959年)/特典ディスクDVD

特典ディスク収録内容(DVD)
●鈴木清順監督初出インタビュー(聞き手:リピット水田堯 収録日:2014年10月26日・10月29日)
●『殺しの烙印』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 2001年発売DVD(DNV-26)収録映像の再収録/収録日:2001年8月8日)
●『殺しの烙印』1967年幻の劇場公開版・修正マスク映像【現在のマスターとの比較映像】
●『野獣の青春』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 収録日:2001年8月8日/2001年発売DVD(DNV-28)収録映像の再収録)
●『野獣の青春』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 1990年11月チャンネルNECO放送「スペースシアター・鈴木清順監督特集」)、等(予定)。

●音声特典:音声コメンタリー 鈴木清順監督・真理アンヌ/聞き手:轟夕起夫 ※既発DVDボックス同作品に収録されていた音声の再収録(予定)。

●封入特典:限定ブックレット(全52P装丁/ 清順監督使用秘蔵台本復元ブックレット 解説:上島春彦)

●各ディスクに予告篇・ギャラリーを収録(SP2作品・特典DVDを除く、予告篇マスターの現存しない作品は収録されません)
●特製アウターケース、ピクチャーディスク
※特典ディスク映像はSD画質になります。(一部を除く)
※仕様や特典は予定となります。予告なく変更する場合があります。

発売日:2024年1月10日
価格:33,000円(税込)
発売元:日活
販売元:ハピネット・メディアマーケティング

商品詳細
https://www.nikkatsu.com/package/HPXN-319.html

Blu-ray ボックス 其の弐 「セイジュンと女たち」
収録内容:Blu-ray6ディスク&特典ディスク(DVD)&限定ブックレット
収録作品:『河内カルメン』[4K版](1966年)/『肉体の門』(1964年)/『春婦傳』(1965年)/『関東無宿』(1963年)/『悪太郎』(1963年)/『裸女と拳銃』[4K版](1957年)/特典ディスクDVD

特典ディスク収録内容(DVD)
●鈴木清順監督×青山真治監督 対談トークイベント(2001年3月24日テアトル新宿「鈴木清順レトロスペクティブ STYLE TO KILL」上映時撮影)
●鈴木清順監督×木村威夫(美術監督)対談(収録:2006年/既発DVDボックスリリース時製作「清順監督50周年記念キャンペーンDVD」収録映像)
●『肉体の門』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 1990年11月チャンネルNECO放送「スペースシアター・鈴木清順監督特集」)
●『悪太郎』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 1990年11月チャンネルNECO放送「スペースシアター・鈴木清順監督特集」)
●『関東無宿』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 1990年11月チャンネルNECO放送「スペースシアター・鈴木清順監督特集」)、等(予定)。

●封入特典:限定ブックレット(全52P装丁/ 清順監督使用秘蔵台本復元ブックレット 解説:上島春彦)
●各ディスクに予告篇・ギャラリーを収録(特典DVDを除く、予告篇マスターの現存しない作品は収録されません)
●特製アウターケース、ピクチャーディスク
※特典映像はSD画質になります。
※仕様や特典は予定となります。予告なく変更する場合があります。

発売日:2024年3月6日
価格:33,000円(税込)
発売元:日活
販売元:ハピネット・メディアマーケティング

商品詳細
https://www.nikkatsu.com/package/HPXN-320.html

▼『殺しの烙印』4Kデジタル復元版の見どころに関するインタビューもお読みください。
https://www.nikkatsu.com/focus/vol20.html

*スタッフコラム「フォーカス」とは?詳しくはコチラ