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原作者島本理生 コメント
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 本作の『Red』は小説と映画でラストが異なる。原作者として最も素晴らしいと感じたのは、その点だった。
 なぜなら私自身が小説を書き終えたときに、人によってはまったく違うラストを描いただろうという想いがあったからだ。
 それはいかに女性の生き方というものに正解がないか、という実感でもあった。

 本作には三人の男性が登場し、ヒロインの塔子に惹かれていく。だから一見、その最中の性愛や、塔子が誰を選ぶのかが物語の主軸のようにも見えがちである。
 だけどそこは本質ではないと私自身は思っている。
 塔子が彼らを通して、誰のものでもない「私」をどう生きていくかが、この『Red』という作品の本当のテーマだった。
 そして映画では、その主題が美しい映像と共により鮮烈に映し出されていたことに、深く感銘を受けたのだった。

 夏帆さん演じる塔子は、透明感と芯の強さとを併せ持っていて、男性たちがひきつけられる理由がそれぞれによく分かる。
 間宮祥太朗さん演じる真はモラハラ夫と断罪されそうな役どころだが、悪気のなさの匙加減が絶妙である。
 原作でも人気のあった柄本佑さん演じる小鷹は、愛情と友情を行き来するような気軽さや包容力がとても魅力的だった。
 そして雪の夜道に立ち尽くす妻夫木聡さん演じる鞍田の、「一緒に帰ろう」には、離れがたい男女の情と業が凝縮していた。

 愛が成就してハッピーエンドで終われるならば、それはもちろん幸せだろう。
 だけど人生はその後もハッピーだけではなく続いていくし、それぞれの深い想いを置き去りにして、唐突に失われてしまうこともある。
 妻や母親としての正しさばかり求められるわりには、幸福の答えがない女性の人生をどのように選択していくか。
 そんなシンプルで根本的なことがずっと置き去りにされてきた日本の女性に、今一度「私」とはなにかを問いかける。

 私にとって映画『Red』は、そんな作品だった。

原作本理生

1983年生まれ、東京都出身。高校在学中の01年に『シルエット』で、第44回群像新人文学賞の優秀作を受賞し、デビュー。03年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞受賞(同賞史上最年少受賞)。『ナラタージュ』は05年「この恋愛小説がすごい! 2006年版」第1位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」第1位。また17年には行定勲監督、松本潤、有村架純出演で映画化され、大ヒットした。15年『Red』で第21回島清恋愛文学賞受賞。18年『ファーストラヴ』で第159回直木三十五賞を受賞。著書『生まれる森』『大きな熊が来る前に、おやすみ。』『アンダスタンド・メイビー』『夏の裁断』ほか。