質疑応答
渡哲也と徳重聡
常に渡さんと会うたびに緊張しています
―(徳重聡、加藤晴彦に対して)お2人とも、渡さんと共演されて、どの辺が緊張されましたか。また徳重さんは初めての映画作品ということで、どういったところが緊張にでてしまいましたか。
徳重: 渡さんは石原プロの社長でありますから、僕は常に渡さんと会うたびに緊張しています。正直言いますと、共演するという事で特別に緊張するということはありませんでしたが、撮影中は常に緊張感がありました。
―今、実際に緊張されていますか。
徳重: お隣にいらっしゃるので、緊張しています。
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僕は人がたくさん集まるところが苦手で緊張しいなんです
―加藤さんは、先ほど、前日も眠れなかったほど緊張されたとおっしゃっていましたが
加藤: 僕は普段も、今日も手に汗をかいたり、人がたくさん集まるところが本当に苦手で緊張しいなんです。
僕の中でやっぱり一番強烈にインパクトのある渡さんというのは、やっぱり「西部警察」です。
ちっちゃい頃に西部警察モデルのモデルガンを購入して、絶対ガルウイングのフェアレディZに乗ってやるぞと思っていた少年だったもので、何か下手な事をやってしまうと、ラストのほうでしばかれるんじゃないかと・・・。
でも、皆さんご存知の通り、寒い季節だったんですが、渡さんをはじめ、監督、スタッフの方々、皆さん本当に暖かい人たちばっかりでお芝居以外でもたくさん勉強になりました。これは本当に大きかったと思います。
加藤晴彦
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渡哲也と徳重聡と加藤晴彦
柔軟に物事を考え、表現できるということがうらやましく思いました
―渡さんのほうから見られた、若いお二人の現場での感想をお聞かせください。
渡: 私ぐらいに芸能界で歳をとってまいりますと、慣れとか経験で芝居をしてしまったり、理屈や頭の中で役柄を考えてやる事が多いのですが、加藤君、徳重君は感性でやっているのだと感じました。
だから、私みたいに頭の固い奴には、2人のように柔軟に物事を考え、柔軟に表現できるということが、とてもうらやましく思いました。見習いたいです。
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原作の物井を、映画を観ていただくお客様に伝えるにはどうしたらいいのか
―物井の人物像なのですが、本をお読みになったあとでどう変わられたか。
渡: 高村先生の作品は、私も4冊くらい読んでおります。例えば「地を這う虫」ですとか、「照柿」、この「レディ・ジョーカー」も、6、7年前には読んでいるんですが、先ほども申しましたように、原作の物井と、これを2時間にまとめるということになってきますと、伝わりにくい部分がございます。
特に物井の特徴ある部分、例えば物井の兄貴を看取るんですけれども、「人間なんてこの程度のもんだ。これが明日のおまえだ、と言う声が聞こえた」。また、「自分がどこへ行こうとしているのか自分でもわかりませんが、まぁ、行き着いたところがどこであれ、所詮はわが身ひとつのことですから、自分のためならもう神仏もいらんなぁ、と、そう思っております」と、こういうふうに原作に書かれているんですが、これを表現するにはどうしたらいいのか、ということで、監督に逐一相談を申し上げたのです。
原作ですとイメージが沸いてくるのですが、脚本からこういったところを、映画を観ていただくお客様に伝えるにはどうしたらいいのか、というところで、監督に相談をいたしました。
渡哲也
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徳重聡
自分も演じているなかで、共感する部分がありました
―合田刑事の人物像、どういう男であったか、演じられて、見方を教えてください。
徳重: 合田雄一郎ですが、この映画の中では、自分がどうしたらいいかわからないというか、答えをなかなか見つけられずに、どこへ進んで行ったらいいのかものすごく悩んでいる男だと、自分はとらえて演じさせていただきました。
自分も演じているなかで、共感する部分がありました。やっぱり人間、どうしていいかわからない「クエスチョン」がいっぱいあるなか、だから生きているんだなぁというのを、非常にこの作品、合田雄一郎をやっていて感じました。
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原作以上に、多くの方々が楽しめる映画になったと思いました
―高村さんに聞きたいのですが、脚本とある程度出来上がったフィルムを観たと思うのですが、それに対するご感想をお聞きしたいのですが。
高村: 脚本につきましては、私たちが目で読む物と、実際に監督さんと演技をなさる出演者の方たちが、その現場で作っていく部分は大きく違うという事が、今回わかりました。
今、仕上げの途中の、未完成フィルムを拝見したのですが、よくまぁ私の面倒くさい小説を、誰でも見てわかるようにきちんとエンターテイメントとして、まとめてくださりました。まず私はもうそれだけで感謝しております。
というのは、私ぐらいの歳になりますと、あんまり込み入ったややこしい作り方をされますとだんだんわからなくなってくるんです。
ですから、映画はもともとお金をはらって楽しんで見るものですから、あんまり頭を使わなければわからないようでしたら困ります。今回の映画は私のような中高年が絶対最後まで、わかるし、退屈をしませんし、あぁなるほどなぁ、こんなことあるか、世の中にこんなこともあるなぁ、といろいろな事を考えさせられるように仕上がったと思います。
ですから、はっきり申し上げて、私の原作以上に、多くの方々が楽しめる映画になったと思いました。
高村薫
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渡哲也と徳重聡
渡さんからは、常に自身を持って芝居しろよ、と言われています
―徳重さんにお聞きしたいのですが、具体的に渡さんから演技に対してアドバイスがあったのか、また、渡さんとの共演で、印象に残っている出来事があれば教えてください。
徳重: 渡さんからは、常に自信を持って芝居しろよ、と言われていまして、特別、あれをどうしろ、こうしろというアドバイスはいただいていません。
この映画の中で、渡さんと自分は同じ画面に出てこないので、その質問には答えられません。
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四時間半の「レディ・ジョーカー」があってもよかったのかなと思いました
―平山監督にお聞きしたいのですが、ものすごく手ごわい原作だったとおっしゃっていましたが、監督は「レディ・ジョーカー」をどのように描いていきたいと思って、制作に取り組まれたのでしょうか。
平山: 去年、クランクインする前に、一度大阪に行き、高村さんにお会いしました。
そのときは「レディ・ジョーカー」を演出する事で、最初に読んだときの感想をそのまま、高村さんにぶつけたんですね。
その時の事を言えば、社会的に虐げられた人間達が、ある社会に対して復讐する話だろうと、単純に捉えていたんです。
そのことを高村さんにぶつけると、いや、そういう話のエピソードは映画の中の一つの要素ではあるけれど、それだけではない、というふうな答えが返ってきました。例えて言えば、一生懸命投げたボールが、違う方向に行って、違う壁に行って返ってきたような印象があったんですね。
そのときに高村さんが言われたのが、これは一つのシステムの話である。虐げられた人たちを含めて、もしくは気がつかずに虐げた人たちを含めて、またあるときは組織であるとか、そういった部分の中で、原作では昭和22年から現代までという長い昭和と平成の時代があるんですけども、そういうシステムの中で、どう人間たちが右往左往して、またある人たちは誘拐にいくし、ある人たちはそれを解決しようと努力するし、また裏切られたりという風な、ある種の大河ドラマのような感じがするのですが、そういう風な印象を持って大阪から帰ってきました。
その膨大な情報量を含めて、上下巻二段組でやるという風に、それをある時間の中でまとめるというのは、それはもうその中でやるという取り決めがあるのでしょうがないのですが、撮影し終わったあと、ひょっとするとこれは四時間半の「レディ・ジョーカー」があってもよかったのかなという思いを、正直今持っています。
でも、それは、それこそ映画を作るというシステムの中で、プロ同士がどういう風に闘って、どういう風に組み上げていくかというのは、そこにひとつの映画作りの醍醐味というかエネルギーがおかれていると思っていますので、そういう風に思わせるほど、なかなか手ごわい原作だったという事です。
平山秀幸
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渡哲也
懐かしくもあり、むなしくもあり、複雑な気持ちでした
―渡さんに質問ですが、日活の撮影所で撮影はされていると思いますが、日活という制作の下に、日活の撮影所で久しぶりに映画を撮った感想をお聞かせください。
渡: 32年ぶりだそうです。よく覚えてなかったのですが。
日活ではコマーシャルだとかテレビドラマの撮影はやってました。
映画では、今申し上げましたとおり32年ぶりなんですが、映画の撮影で何日も通っていると日活の制作部だとか、俳優部だとか、俳優の控え室、ダビングルーム、いろんな建物だったそういったものが、今はもうマンションになったりしていてなくなっていることに気づきました。
テレビやコマーシャルを撮影したときにはそんなに感じなかったのですが、32年ぶりの映画を撮ってみますと、ああそうなんだなぁ、僕が入った頃はここにこういった建物があったんだなぁと、懐かしくもあり、むなしくもあり、時の流れといいますか、そういった複雑な気持ちでした。
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これからもっと映画をやっていきたいと思う撮影でした
―徳重さんに質問ですが、映画を一本撮影し終えたということに対しての感想をお聞かせください。
徳重: 正直、映画に一本出ることに対して、ものすごく難しく考えていたんですが、平山監督に毎日のように指導されて、あっという間に毎日が過ぎていったので、非常に楽しい撮影に終わって感謝しております。これからもっと映画をやっていきたいと思う撮影でした。
徳重聡
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渡哲也
―俳優の皆さんにお伺いしたいのですが、この映画はまだ完成していませんが、演じ終えられて、この映画を通して、何を伝えたいか、観客の皆さんに観てもらいたいかをお聞かせください。
渡: 観ていただきたいところはもちろん全体ですが、こういった人間の生き方、こういった人間もいるんだな、こういう風にしか生きられない人間もいるんだな、とそういったところを観ていただければと思います。
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長塚: 難しいです。“ある不幸ということを、それはどこまでいっても重ならない平行線上にある不幸”、僕自身はこの映画に参加させていただいて、そういうことを考えました。
長塚京三
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加藤晴彦
加藤: 渡さんからもありましたように、もちろん映画という物は、頭があって、一番最後があって成立している物ですし、必ずしも作る側が、すべて、こうですよ、ああですよという事ではなくて、やはり観に来ていただく一人一人のお客様にも、それぞれ感想を持つスペースを持った状態で送る物だと思っています。まず言えるのは、観終わった方々、一人一人が感じたことが、全て正解なんだろうなと思います。
あとは、今本当に、日本だけではなく、地球全体で言えることですが、忙しいですし、いろいろな事が起こっている時代です。人って言うのは、もちろん平和で何も起こらないままがいいかもしれないですが、何かが起こったときにまた次のものが見える、またそれでもう一歩踏み出す、なにかそういったものをこの映画が教えてくれるんじゃないかと思います。
観終わった後も、それぞれ皆さんの頭の中で、ずっとストーリーは続く映画だと思っています。
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徳重: 先ほどの合田雄一郎に関する質問に答えた事と重なる部分があるかもしれませんが、僕はこの「レディ・ジョーカー」は、人間が一つ一つ小さな苦しみを溜めていって、大きな苦しみになったときに、悲しみだったり、悪い部分が出てきたりという状態になったときに、どうやってもがいて、その後生きていくのかという、本当に生々しい人間模様が、すごく出ている作品だと思っています。
徳重聡
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渡哲也と徳重聡
渡: 補足ですが、例えば、この作品では、私たちがビール会社の社長を誘拐して身代金を取ったりするのですけれども、またビール会社ではビール会社で、総会屋との接点があったりして、上層部は変わるんですが、ビール会社そのものは何もかわらないんです。また警察機構の中では腐敗があるのですが、腐敗を自覚したまま、そのまま組織としては続いていっている。何も変わっていかない、本当は変えなければいけないのですが、変わっていかない、そういう無常観というものを、私はこの映画をやらせていただいて、特に感じています。
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