港ヨコハマ――外国船を迎え入れる国際色華やかな外観とはうって変わって、夜ともなれば、明日の目的も糧も持たない男共が、一夜の歓楽を求めていずこからともなく集まり、物憂い退廃と喧騒の街を造り上げていく。やくざ、愚連隊、不良外人、麻薬密売者と人種は様々だが、それだけに、喧嘩、恐喝等は日常茶飯事のように行われている。そして今夜もここ本牧のバーでは小銭欲しさの数人のやくざが獲物を追い詰めた猟師のように二人連れの流しを取り囲んでいた。流しの一人は盲目、もう一人は混血の少年。やくざ達にとっては赤子の腕をひねるようなものだ。男の一人が盲目の男にかかろうとした瞬間、それまでカウンターに座っていた一人の男が振り向きざま、左ストレートを男の顔に叩きつけた。男の名はポール。アメリカ海兵隊から日本へ派遣され、厚木基地で現地除隊した男で、夜の横浜界隈では「あの男には手を出すな」という不文律が出来ているほど喧嘩早く腕の立つ男だ。数分後、表に出た流しをやくざ達は執拗に待ち伏せし、再び襲いかかった。しかし、一歩店を出ると、盲目の男は先程とは別人のように凄絶なパンチを繰り出し、仰天したやくざ達はほうほうの態で逃げ出した…。