美しく広大な原野を、ローカル線が一条の線を描いて走ってゆく。ここは、北海道・岩内である。ビール工場に働く小神須美子は、廃坑のため定職を持たぬ父や内職を続ける母にとってはもちろん、不良仲間に入って家に寄り付かない弟の聡や幼い弟妹たちにとっても、文字通り一家の担い手だった。しかし、須美子にはこうした生活からくる暗い影はみじんもなかった。むしろ快活で明るい彼女の性格は周囲を温かく包み、熟練した働きぶりはいつも人目を惹いていた。須美子には、内村弘二という同窓生のボーイフレンドがいた。弘二は、職場に教室があり実習しながら勉強する「企業内高校」の四年生で、外装工の模範青年だった。休日を利用し、近くの農園でアルバイトの鍬をふるっていた須美子は、久しぶりに弘二と逢った。二人はお互いの仕事の辛さなどを話し合いながら旧交を温めると、再会を約して別れた。いつの間にか、須美子の心の中に弘二の占める比重がだんだん大きくなっていった。数日後の工場での昼食時に、それは何の前ぶれもなく突如として起こった。須美子は足首に激痛を覚えてその場にうずくまってしまった…。