大正初期――東京。夜の大川端を音もなく走る一台の人力車。車上の改政党実力者城野をめがけて襲いかかる二つの黒い影。軍備拡張を巡ってのいざこざから反対派の城野を狙う急進派の手先だった。寸前のところを書生の村瀬政吉が暴漢の刃から城野を救った。政吉は渡世人だった父の死後、父の生一本な男気に惚れ込んでいた城野が引き取り、自分の後継者として学問を修めさせ、近々英国への留学も決まっていた。そんな政吉に城野の娘お雪がほのかな慕情を寄せていた。数日後、何事もなく出かけた城野が無惨にも冷たくなって帰ってきた。暴漢の凶弾に倒れたのだ。一瞬政吉の目の前は真っ暗になった。これからどうしたらいいのか。一人残されたお雪とともに悩んだ。その悲しみに追い打ちをかけるようにお雪の家に立ち退き令状が出された。政吉は執達吏に詰め寄ったが、金貸しの丸惣が債権者であると令状を突きつけられた。生前、城野のよき理解者面していた丸惣の手の平返しの仕打ちに政吉は憤ったが、お雪は「私も城野喜十郎の娘です。父の借金は私が返済します」と芸者として柳橋へ出ることになった…。