降る雨の中を小走りにやって来た一人の男が、この土地の親分関沢大之助の家に単身殴り込みをかけた。男は仕込杖でただ一刀の下に関沢を斬り倒すと、呆然と立ちすくむ子分共を尻目に風のように去っていった。その男こそ、人呼んで関東政、津上一家の高田城三郎だった。高田城三郎は、こうして長い間続いた津上と関沢の縄張り争いに決着をつけると、追いすがる津上の娘静江の慕情のまなざしを振り切って、警察の門をくぐっていった。時に大正も半ば、乱れ桜に吹きつける雨の夜の出来事だった。三年後、監獄から出所した城三郎を迎えたのは兄弟分の流れやくざ花岡長次郎たった一人だった。その三年の間に、津上は流れ者の刺客門馬、長部に殺され、組はバラバラになったうえ、娘の静江は母の大病と子分たちを堅気にするため、身を芸者に落としてまでその大金を工面したというのだ。男泣きに泣いた城三郎は、何としてでも静江を元の幸せの姿にかえしてやらなければと固く心に誓うのだった…。