渡世の義理で人を殺めた男が堅気の弟と満州へ逃れようとするが…。無人の座敷で次々に開かれる襖の色、ガラス貼りの畳を下から捉えた立ち回り、クライマックスで様式美が爆発する、鈴木清順×木村威夫(美術)×高村倉太郎(撮影)による傑作。
昭和初期、東京深川の木場で、男が戸塚組の親分岩松を刺した。鮮やかな白狐の刺青を入れ“白狐の鉄”と異名をとる大和田組の渡世人・村上鉄太郎であった。鉄は堅気になることを条件に、大和田組組長の命令で岩松を刺したのだ。鉄はその足で、美術学校へ行くため仏具屋で修業している弟・健次を訪ねたが留守だった。鉄は店の主人に旅に出ると告げ、健次のことを頼んだ。仏具屋を出た鉄が大和田組の政吉に銃口を向けられた時、店の主人から兄のことを聞いた健次が駆けつけ、政吉を射ち殺してしまった。堅気の弟に人殺しの汚名を着せたくない鉄は、2人で満州へ逃げようと船に潜り込むが、世話してくれた山野にまんまと騙され三百円もの大金を騙しとられてしまった。路頭に迷ったふたりは、みどりという少女の助けで、港湾業者「木下組」のやっかいになる。みどりは鉄に好意を寄せるようになり、健次は木下組長である勇造の妻・雅代の大人の色気に惹かれるようになる。やがて兄弟に残酷な別れと、刺青に導かれた闘いの運命が訪れる…。