黄金の純愛コンビ吉永・浜田が誠実な人生、若い世代の愛情を厳しく追求し、愛しながらも別れていくという石坂文学の抒情豊かな哀愁感動篇。
その年の最後の大雪が朝になってやんで、北国の冬には珍しくいい天気になった。その朝早くゆり子の母はる子は息を引き取った。喪服姿のゆり子は、葬式がすんで粉雪の中を去っていく恋人信太郎を見送りながら、永遠に別れる決心を固めるのだった。しかし、別れることをきめたゆり子の心の中には強い後悔が吹雪のように吹き荒れていた……。北国から上京したゆり子が、医学部の学生風見信太郎と知り合ったのは、県人会の席上だった。信太郎の郷里はゆり子と同県だったのだ。その会の席上、信太郎は選挙の事前運動に県人会が利用されているのではないかと、所信を堂々と述べた。ゆり子自身わずか二百円の会費というのに、一流のホテル、フル・コースの洋食といった豪華版に不審を抱いていた矢先、学生らしい潔癖さで発言した信太郎に大いに共鳴するものを感じた。その日ゆり子を県人会に誘った同郷の矢吹健次郎が、あたりまえのように座っているのにくらべ、はるかに清々しい魅力を感じたのである…。