まだ五月だというのに、やけに蒸し暑い日だった。小倉康子はその日から、学校の教授の紹介で、今をときめく小野寺建設の社長令嬢、小野寺亜紀の家庭教師を務めることになった。裕福でない康子にとって、小野寺家のデラックスさはまばゆいばかりだった。この家は亜紀の母が早くに死んでしまったため、父・重樹と女中・シノ、そして居候の日下浩という青年の四人暮らしだった。浩の父は小野寺建設の経理課長をしていたが、汚職事件の渦中に巻き込まれて自殺、そのため浩は小野寺に引き取られたのだった。しかし、当の浩はそのことを潔しとしないのか学校をサボり、昼は庭のプールでゴロゴロし、夜は仲間の溜まり場“ブルーマンディ”でビートにひたり、憂さを晴らしていた。小麦色に日焼けした浩がこれ見よがしにプールで泳ぐ姿は、亜紀の勉強をみる康子の目にいやでもチラついた。十七才の亜紀は、これを目ざとく見つけて康子に言うのだった。「私ねぇ、あと一年たったら浩さんに抱いてもらう約束してあるの」……