ここは残雪の東北平野。そこを横切るローカル線のとある駅にただ一人降り立った伊能琢磨青年は石黒と名乗る貧弱な五十男に迎えられた。石黒は自分から駅前のそば屋に誘っておいて伊能にたかるというチャッカリ屋だ。彼はこの町の中学の事務員で、新任の英語教師の伊能の世話を仰せつかって来たのだ。伊能は、この町に来合わせた町芸者才太郎と、その抱え妓の新太郎を紹介されたが、初対面の才太郎が持病の胃痙攣を起こしてぶっ倒れたのには驚かされた。だが、これは才太郎の作戦だった。伊能の下宿井上家でも娘の伊保子のお色気攻撃。石黒の話だと、この町の男はほとんど他所へ出稼ぎに出てしまって女が余っているということだ。それだけに都会育ちの伊能は、若い女性にとって注目の的だった。町医者木山も娘の安江を押しつけようと躍起になっていた。翌朝、奥羽中学の職員室は伊能の噂で持ちきりだった。