石沢美保子は、郊外に住宅だけあったが、夫の死後、夫が残した退職金と自分が仕立て物をして得る手間賃だけで、娘たちの始末をつけてやらなければならなかった。行く末を考えると並一通りの苦労ではなかった。美保子は家計を助ける意味もあって、二階の八畳に学生を下宿させ、相手の人柄をみて上の娘から順にその世話をさせた。美保子が立てた計画に狂いはなかった。娘を売り物にしていると噂され、年頃の娘を持った親たちの世間話にもされたが、上の娘から一人ずつ、美保子が見込んだ下宿人と結婚していった。美保子が無理に押し付けたというわけでなく、若い者どうしが、お互いに愛情を呼び覚まされあった結果の、自然の成り行きであった。計画が実現するたびに、美保子は自分の心に言い聞かせて来た。上の娘三人の中には、舅に仕えているものもいたが、それについて苦情をいってよこすこともなかった。今の美保子には、最後に残ったカナ子とタマ子のことが気がかりだった。もっともタマ子はまだ高校生。ボーイフレンドの大助と生意気なことを言い合っている年令で、さしあたっての問題は、洋裁学校に通っているカナ子のことだった…。