貧困と絶望のどん底にあってもたくましく生きる少年の姿と強い兄妹愛を描く感動篇。
亮太の家は土手の窪地にある、土間と六畳一間のバラックだが、貧しくたって亮太は平ちゃら。妹の京子にとっても良いお兄ちゃんだ。だが、元気な亮太も胸を痛めるような事件が起きた。父が女と駆け落ちしてしまったのだ。初恵は亮太を連れて再婚、京子は夫の連れ子だ。初恵が日雇い労務者になって港に働きに出るようになると、京子は亮太について学校へ行き、終業まで校庭で遊んだ。夫に去られた初恵の心の傷は大きい。不安と孤独で押し倒されそうになるが、幼い予供たちを思って必死にこらえた。亮太を心配した担任の春田先生は京子を施設に預けることを、隣人の矢田昌造は再婚をすすめたが、初恵は「三人でやっていこうね」と亮太に言うのだった。しかし、女の細腕1本では所詮無理だった。三人共倒れを心配する昌造に説得され、初恵は三度目の結婚をした。新郎の文次は、戦争で左腕を失くしていた。亮太は文次を父親と認めたがらなかったが、文次は子供たちにも優しかった。そして初恵は、文次の子供を身ごもった。温かな陽ざしが差しこむ春。初恵は産後のひだちが悪く、長年の過労がたたって死んだ。文次は、生まれた子を施設に預けた。それが悲しかった亮太は、京子を連れて鉄屑拾いをはじめた。亮太を可哀そうと思っても、文次の稼ぎではどうすることもできなかった。彼もまた、悲痛な気持で毎日を過ごしていたのだ。その虚ろな心が禍いを呼び、ある日、彼は車にハネられてしまった…。