名古屋から富山までの準急列車を舞台に、人の好い車掌の眼に映る様々な人間模様を描いた明朗喜劇
牧田一夫君は国鉄の乗客専務車掌である。毎日トランク、救急箱、信号旗などの七つ道具を持って列車に乗り込む。まだ若い牧田君にとって列車内の出来事は人生の縮図である。彼は車に揺られる日々の勤務が面白くて仕方がない。ある朝、いつものように助役室に現わした牧田君は、荷物を一つ運んでくれと頼まれた。牧田君の前に現われた荷物というのは、首に行先の駅名を大きく書いた札をぶら下げ、風呂敷包みを抱えた男の子である。目を白黒させながら、牧田君は男の子を車掌室へ入れて、“生きた荷物は厄介だ”と溜息をついたが、男の子はすっかりご機嫌、「ボクは吉川進というんだよ、おじさん、父ちゃんが作ったおむすび食べないか」と自己紹介と愛嬌を一度にやってのける。どうにか進を車掌室に落ち着かせ、牧田君がホッとしたのも束の間、今度は汽車に乗るのは初めてというお婆さんが発車間際に駈けつけた。“早く乗ってください”とせきたてる牧田君をぐっとにらみつけたお婆さんは「年寄じゃの汽車を待たせておけばいいに」と大威張り。ようやく汽車を発車させた牧田君は車掌室で進から、北陸の田舎にいる祖父母に一人で引き取られることになり心細いと話す進に大いに同情してしまった…。