その夜、横浜のナイトクラブ「チロル」に新顔のトランぺッターが現われた。出演中のバンド“ブルー・ファイブ”の一人が急病になったため、代わりに雇われた伊奈修一という男だった。修一のペットの音色は素晴らしかった。客席から物凄い拍手が巻き起こり、その反響に驚いたバンマスの灘は支配人の佐山に契約するように勧めた。だが、麻薬取引をしていて警戒心の強い佐山は、修一に難癖をつけて手下の佃に追い出させようとし、修一と佃は猛烈な格闘をくりひろげた。修一は昨日まで外科医だった。東京の白石病院を飛び出すように辞めたのには、勿論理由がある。――修一が当直の夜に、医療用の麻薬が盗まれたからだ。盗んだ者は内部の者に違いなかった。もし盗難事件が表沙汰になれば恩師でもある病院長の白石博士に迷惑がかかる。それで、修一は一人で罪を背負って辞職したのだった。翌日、修一は医大時代からの親友で横浜の裏街で開業医をしている重松を訪ねた。修一から事情を聞いた重松は、一昨年まで勤めていた巡回医療船“双葉丸”の船医の仕事を紹介するのだった…。