大学の近くにある学生喫茶店の奥の部屋では常連の学生たちが今日も麻雀をやっていた。その中の一人小沼昭夫は、いつものように小気味よく勝つと情け容赦なく、かけ金を取り上げ美しいがどこか冷たい横顔を見せて表へ出ていった。昭夫は小沼物産社長小沼重太郎の次男である。小沼家は父の重太郎が事業欲は旺盛ながら家庭はあまり顧みず、昭夫と同じ年令の平井雅子という女を可愛がっていた。また兄の敏彦は、父の威光で総務部次長におさまり、自分で無理に連れ込んだ嫁の由美子に今は飽きてしまい、女中同様に扱い、また弟の弥寿彦はカリエスで寝たっきり、母の陽子は重太郎の機嫌ばかりを取っているといった複雑な家庭だった。そんなところから昭夫は、いつの間にか人間の行為の何ものも信じない青年に成長してしまったのかも知れない。広大な邸に住み、何一つ不自由のない昭夫が執拗なまでに金に執着するのを友人たちは不審がったが、昭夫にはそれなりの理由があった。弥寿彦は家庭の誰よりも義兄に当る昭夫を慕っていた。昭夫は、父の過去の女である料亭の女中をしている高木芳子との間に生まれた子供だった…。