思春期の少女が、ふとした興味からのぞいた大人の関係。金と肉欲とがもつれた完全犯罪が純真な少女の心をむしばむ異色ドラマ。
三輪明子のアパートの部屋の窓から、小森歯科医院の診療室が見える。中学生の明子は毎日学校から帰ると、カーテンを開けてガラス越しに医院の診療室をのぞき込む習慣がある。幼い頃父を亡くした明子は、料亭の女中頭をしている母のミネと二人だけでこのアパートに住んでいた。明子が帰る頃には、すでに母親は料亭へ出かけてしまった後である。部屋中にはミネの厚化粧の匂いが立ち込めて、明子のまだ成熟しきらぬ身体をくすぐる。明子はそんな自分の生理に反発するように、鞄を乱暴に投げ出すと、ミネの置いていった菓子をつまむ。だがいつの間にか明子はカーテンを押し広げ、そっと窓ガラスに顔を押しつけて診療室をのぞき込むのだった。小森医院では、若い歯科医が主に診療に当っていた。片山というこの歯科医は、その美貌が近所の評判で、医院では若い女の患者が増えたと喜んでいる。明子がのぞいたとき、片山は近所に住む料亭の女中加代子の治療をしていた。明子は片山の端正な横顔をじっと見つめていたが、加代子の露骨な甘え方にカーテンを荒々しく閉めた。そして母親の鏡台の前に坐りこむと、じっと自分の顔を見つめるのだった…。