ここは韓国のある抑留収容所――その夜、激しい雨にまぎれて、三人の男が脱出をはかった。通称ジョー、土門、秋山の三人である。だが、入江に待たせてあった船に乗り込んだのは土門一人だった。武装監視兵に狙撃された秋山をジョーがかばっている間に、卑劣な土門は自分だけで船を出航させた。「あの船は、三人で苦労してやっと買った船だ。……畜生!土門の奴!」無念の涙を浮かべる秋山は、故国に残した弟清次の後見を頼むと、かくまってくれた一隻のサンパンの中で息を引き取った。「安心しろ、お前をこんな目に合わせた仇をきっと取ってやる」ジョーの胸には激しい怒りがこみあげた。ところで、追われる二人をかくまってくれたのは梨花という若い娘だった。その梨花には女医の母親がいたが、日本人であるために終戦直後内地に引き揚げていった。「父は死んだし、是非、母さんに逢いたいわ」切ない慕情に梨花の瞳はうるんだ。それから三年後――重労働で帰国費用を稼いだジョーは、梨花の他に仲間の健を連れて日本海の海岸に到着した…。