一人の少女が国道で高級車にはねられかけた。少女の名前はあい子。脚が悪いのか松葉杖をついていた。あい子は幸いかすり傷一つ負わなかったが、何故か手帳を取り出すと素早く走り去っていった自動車のナンバーを書き込んでいた。数日後、山本と名乗る男が、あい子をひっかけた例の高級車の持ち主から二万円を脅し取った。そして彼はそのうちから僅か七千円をあい子の母妙子に与えた。それは貧しさが生んだ悲しい、しかも恥ずべき仕事だった。働き手の夫を失って三人の子を抱えた妙子は、もぐりで法律相談所を開いている山本に騙され、左脚が軽い小児まひのあい子を“当り屋”に仕立てて生活費を稼いでいたのだ。あい子の姉で区役所に勤めているみち子もそれを止めることができなかった。何故ならみち子も山本の世話で就職できたからである。あい子は、母親が再婚できないのは、自分がいるからだと知っていた。だから、彼女は悲壮な覚悟で月に一度か二度国道に立っていたのだ。その頃、盛り場はクリスマスイヴとあって大変な賑わいだった。堂本史郎はそんな騒がしさに飽きたのか友達の車を借りると国道に走り出ていった。若さに任せてスピードを出していた史郎は、飛び込んできたあい子を避けることが出来なかった…。