ある日の昼下り、横浜に入港した外国航路の客船から、真っ黒に日灼けした逞しい青年紳士が桟橋に降り立った。男の名は山下英治、もとボクシングのウエルター級チャンピオンである。英治の乗ったタクシーは一路東京へ向かったが、尾行する怪しい乗用車に気づいた英治が、とある街角でタクシーをストップさせると、慌てた乗用車は花を満載した軽トラックに衝突、喧嘩になったので仕方なく英治が仲裁に入ると、尾行していたのは高岡組の子分だということが判った。それが機縁で英治はその軽トラに乗せてもらったが、途中、銀座の安田花店で運転手の勝がまたやくざの高木と喧嘩をして殴り倒されてしまった。店主のヒゲ安に教えられて、英治は勝を六本木の梶原フラワーショップに連れて行った。勝はそこの店員だった。ところが出てきた店主を見て英治は愕然とした。それは、かつて英治が栄光を賭けてタイトル・マッチを戦った相手、しかも英治の強打で両眼を失明した梶原英夫だったのである。その事件でショックを受け、ボクシングに失望した英治は、それからすぐシンガポールに渡ってダム工事の現場監督として働いていたのである…。