都会の少年と寒村の少女の愛と慕情を、広大な牧場を背景に描いた純愛映画
岩手山のふもとの閑散とした小さな駅に都会風のしゃれた服装の少年が降り立った。その少年はきょろきょろと辺りを見まわしていたが、そこへ二輪馬車が駆け込んでくるのを見ると、敏しょうに身を躍らせていきなり馬車に跳び乗った。馬車を御していたのは可愛らしいが、いかにも気のきかぬような少女だったが、これには少なからず驚いた。しかし少年は少女のびっくりしているのには無頓着に、「君、安井さんだろう?お迎えありがとう」といった。たしかに人を迎えに来たのだが、こんな少年だったとは……少女は腑に落ちない顔つきで、首をふりながら馬車を家に走らせた。二人が去ったあとに一見して医者とわかる老人が着き、人待ち顔に待合室のベンチに腰を下ろした。三十分ほど経つとそこへタクシーが着き、駅から数里離れた村の村長が大急ぎで降りてきて、駅員に“東京から坊ちゃんが一人で来なかったか”とたずねた。“女の子と一緒に馬車に乗っていった”と教えられた村長は大あわてにあわてたが、もっと驚いたのは先刻から坐っていた医者。彼は「それはわしを迎えに来たはずの安井さんの馬車なんだ」と叫んだ。“安井”ときいて村長は二度びっくり。「わしは安井だが、ま、ともかく」と二人はあたふたとまた車で村の方へ引き返していった。