銀座のスリが、上京した母親に親孝行をと会社員に成りすまし東京見物をさせるが、母は全てを見透かしていたという笑いと涙の傑作喜劇
東京は花の銀座。ゴロちゃんはその日本一の大都会ではちょっとした名士だ。といっても、総理大臣や東京都知事ではない。あんまり大きな声ではいえないが、チャリンコ、すなわち掏摸のお兄さんなのだ。掏摸といってもお人好しで、ちょっとハンサムなゴロちゃんは、靴磨きや花売り娘などに人気がある。そして、当然のことながら、彼には愛しい彼女がある。おにぎり食堂の娘彰子だ。もっとも、似顔絵画家の矢沢というライバルもあれば、彼女にも社長夫人にという縁談がきているから、ゴロちゃんもノンビリしてはいられない。「掏摸を止めなければ結婚してあげない」という彰子の言葉に、彼は一大決心をして堅気になることにした。ところがである。急にゴロちゃんの母親が上京してくるという電報が入った。そこは親孝行な彼のこと、全財産をはたいてもお母さんを歓待しなければと、がま口をあけてみれば、たったの二十円。そこで心の中で彼女にわびて、やむなく軍資金稼ぎと街へ出ればヘマばかり、掏摸係刑事の春山が後をつけてくるとあっては商売もあがったり。一文無しで母親を迎えに行くというハメになってしまった…。