薄あかね色に暮れなずむビル街の空に、色とりどりのネオンが灯り始める頃……ここは東京駅の中央改札口。楽器ケースを抱えこんだ数人の男が佇んでいた。彼らはエキストラバンドマンと呼ばれ、ここに集まっては、その日の仕事を貰うのを日課としていた。利根洋二もその一人だった。ある日彼は橋野マネージャーからキャバレーの仕事を貰い、愛用のギターを抱えて仕事場に向かう途中、義妹の弓子から父の急死を告げる知らせを受けて愕然とした。洋二が大学に入学した二年前に母が急死した後、腹違いの妹を持つ義母佳代と父の再婚に嫌気がさして家を飛び出していった洋二だったが、やはり父の死はショックだった。父の研作は、銀座のバー「ジプシー」に勤める俊子という女給と熱海に泊まった夜、心臓まひで死んだというが、不審を抱いた洋二は日本橋に法律事務所を開いている兄の喬一を訪ねた。だが、積極的な意見を聞けなかった洋二は自分の力で疑問を探ってみようと決心するのだった。