悲しく甘い恋の切なさ。愛することの喜びと愛されることの苦しさをはじける若さの中に描く青春純愛篇。
四本煙突が見える下町の工場地帯。山中みどりは、その中の玩具工場に勤める18歳の女子工員。明るい性格の彼女は工場の人気者だった。彼女は裏町にある小さな飲み屋「ほまれ」の娘で、母親のおしげと姉のもも子が店を切り盛りしていた。しかし、この店もオリンピック通りを造るために立ち退きを迫られていた。みどりと弟の小学生・政雄は呑んべえ相手の商売を嫌って、これを機にお店をやめてもらいたいと願っていた。みどりはたくさんの玩具に囲まれて働く今の職場が楽しく、働いた金を貯金して大学を受験しようと張り切っているのだ。ある日、みどりは映画館の切符売り場で金を忘れて困っている前に並ぶ大学生のために代金を払ってやった。高木誠と名乗るその青年はお礼をしたいからと名前と住所を教えてくれと粘ったが、みどりは取り付く島もなかった。しかし、映画が終わった時には若い二人の心はすっかり打ち解けて、誠は自分の車でみどりを家の近くまで送ってあげるのだった。