春香る田舎町にくりひろげられる涙と笑いの人生模様を温かいユーモアに満ちたタッチで描き出す感動の珠玉篇。
東北の山野に春がやってきた。緑の山々に囲まれたこの小さな町――尾花山町の警察も急に忙しくなってくる。上は署長の栗橋から下は平巡査の花川まで総勢八人の警察官が人口数千のこの町一帯に正義のにらみを利かしているわけだ。ある朝、栗橋署長が町長主催の宴会に招かれていった。それと同じ汽車には集団就職のヨシエたち貧農の娘数人が乗っていた。「ヨシエ、身体に気をつけてなァ…」彼女とは小学校が一緒だった花川も見送りに来ていた。ヨシエの父勘次郎は借金だらけの大酒飲みで、彼女はその穴埋めのため働きに出るのだ。数分後、町はずれの鉄橋で大事件が起こった。鉄橋の上をフラフラ歩いていた男が、汽車に驚いて川の中に落ちてしまったというのだ。しかし、かけつけた竹田巡査はカナヅチで駄目、町助役の川越がとびこんでやっと救い出した。この男与助は箸にも棒にもかからぬ怠け者で、女房シゲコからとうとう追い出されてしまったという。ところがこの与助、警察から出ると今度は自分を助けた川越に借金しに押しかける厚顔ぶり。取調べにあたった花川、竹田の両巡査もただ呆れるばかりだった…。