「被告高村勇を死刑に処する」勇の身体からガクンと力が抜け、母の澄江と妹雪子のすすり泣きが法廷のしじまを破った。その日は小春日和の天気のいい日だった。勇は暖かい陽を浴びて浪速拘置所へ送られた。鍵の音が冷たいコンクリートの監房にこだまして勇は独居房に入れられた。狭いタタキに畳が二畳、そのほかは寒々としたコンクリートの壁が重たくのしかかっていた。そして、鉄格子のはまった窓の外にも青空を区切って塀がどこまでも続いていた。勇はその夜うなされた。悪夢のようなあの恐ろしい思い出が彼をとらえて放さなかった……勇は酒屋の店員だった。配達の途中オートバイを自家用車にぶつけ、その弁償金を払えなかった彼は思い余って主人夫妻の寝室に忍び込んだ。枕元の手提げ金庫に手を延ばしたとき、運悪く主人が目を覚ました。そして勇が我に返ったとき、主人夫妻は血まみれになって倒れ、彼の手には凶器のスタンドが力一杯握られていた……