刑事物語シリーズ第9弾。鋭いカンと人情味でお馴染みの益田喜頓、青山恭二の父子刑事がジャズの世界をむしばむ麻薬の恐怖と闘う異色篇。
粉雪の舞い始める中に、夜の闇が華やかなネオンを圧しつぶすかのように大都会の隙間を埋めつくした。ジャズ喫茶「ファンキー」のステージでは、人気のトップを行く楽団“ファイブ・ジャンプス”が熱狂的な演奏を続けていた。暗い客席を満たす異様な興奮が、ジャズによってかき乱された空気をさらに熱っぽく煽っていた。やがて万雷の拍手、空気をつんざく口笛を背後に捨てて、楽屋に5人のメンバーが戻ってきた。彼らの顔は皆一様に疲れていた。それはジャズの醸し出す興奮のせいばかりではなかった。彼らは楽器を置くや注射器を取り出し、蒼黒い斑点の浮き出ている腕に突き刺すのだった。麻薬―彼らもこの薬のもたらす恐るべき陶酔を求めて心身をすり減らしているのだった。だが彼らの中で高木と白木、バンドボーイの伸一は麻薬を打っていなかった。警視庁通信指令室のブザーが鳴って、ジャズ喫茶「ファンキー」の裏口で人が殺されているという知らせが入ったのは、ファイブ・ジャンプスの演奏が終わって間もなくのことだった。