拾い子のために一生独身で尽くす益田喜頓のお人好しの父親を中心に、庶民の善意と愛情が描き出すユーモアと涙の人情喜劇
森野石松――威勢の良い男を連想させる名前だが、この人物いささか名前負けしたのか、実直すぎて気が弱く、現代というおよそガメツイ世相には不向きな性格の男である。この石松の職業は郵便配達で、毎日毎日犬に吠えられ、サービスのつもりであやしてやった赤ん坊が泣き出し母親ににらまれるやら、せっかく拾ってやった洗濯物がシュミーズで、お嬢さんから怒られたり、善意が全部逆にとられるという有様だ。昼間こうして働く石松は、夜は河原で蛙を取って、医療器具店へ解剖用材料として売るのだが、これは母親のいない娘みどりの結婚費用に充てるため。世の中がすべて逆目に出てくる石松の、このささやかなアルバイトにも一悶着が起こってしまった。いつものように虫取り網をかまえ蛙を狙っていた石松は、散歩に来ていた有閑マダムのスカートを誤って捲り上げてしまったのだ。血相変えたマダムが、懸命に弁解する石松を警察に引っ張っていったのは無論のことだ。ところが取調べにあたった部長刑事の名が都鳥、森の石松をエンマ堂で殺したあの都鳥かと、プンプン怒っているマダムのそばで、二人はすっかり意気投合してしまった…。