江口洋助は商事会社の支店長である。営々と勤めあげてやっと得た地位ではあったが、それも束の間、来年は定年である。そんな訳で彼は毎日サラリーマンの悲哀を噛みしめながら書類の山に向かっているのである。しかし、自分の定年のことには神経を使っている洋助も、一人娘の敦子の結婚にはいまのところみじんも頭を悩ましていない。それというのも敦子は28歳まで結婚しないという信念を持っているからだった。そんな敦子に、叔母のトキが縁談話を持ち込み、仙台から大阪に転勤になるという山路良一という青年と見合いをした。良一は誰が見ても好感の持てる青年で敦子も心を惹かれたが、もともと結婚する意志のない彼女は、その日のうちに良一との交際を断った。その翌日、敦子は親友の啓子に良一を紹介した。そのあと、洋助の幼馴染である春枝が女将をしている割烹の「いま春」で食事をしたが、啓子と良一はすぐにうちとけあい、気を利かせた敦子はそこで二人と別れた。しかし、仲睦まじく大川端を帰っていく二人を見送った敦子の心には、ふと一抹の淋しさが浮かんでくるのであった…。