東京の片隅、月島のとある建築現場附近で男の他殺死体が発見されたという情報が、警視庁記者クラブに入った頃、東京日報の敏腕事件記者伊那ちゃんの結婚式がおごそかに行われていた。仲人役の東京日報の相沢キャップが「新聞記者というものは、まことに女房泣かせの職業でありまして……」と因果な記者商売の話をした折も折、列席していた記者クラブの面々に“殺し”のニュースが入り、披露宴会場はにわかに落着きを失ってしまった。新郎の伊那ちゃんすらも忽ち事件に気を取られてしまう始末。相沢キャップの話を裏付けるような事態が、早くも結婚式当日に起きてしまったのである。警視庁の梅原部長刑事の発表によると、被害者の身許調査の手掛りとなるものは皆無で、しかも被害者は何処か他の場所で殺され発見現場に運ばれてきたと推定され、複雑な事件となる模様だった。しかし、被害者のズボンの折り目から真新しい贋造の百ドル紙幣が発見されるに及んで、最近起きたニセドル事件に関係があるとみなされた…。