海底から来た女
かいていからきたおんな

夏の浜辺を舞台に、大鱶の化身である野性の少女と純真な少年の交情を幻想的に、エロチックに描く異色篇。

快い潮風を突っ切り、敏夫はヨット「ファラオン号」で走った。夕焼雲が海を茜色に染めるころ、走り疲れて入江に帰って来た敏夫は、崖の上でハーモニカを吹いた。その美しい音色が、小説家・堤の心を捉えた。堤はその日、妄想にとりつかれていた。海を走る敏夫のヨットに、黒髪をなびかせた美しい少女が乗っているのが見えたのだ。その話を聞いた敏夫は、少しオカシイな、と思った。その夜は海が荒れていた。朝。眩ゆい陽ざしの中でファラオン号が揺れていた。敏夫は首をかしげた。しずくの垂れた長い黒髪の少女が乗っていた。驚いたことに少女は全裸で、さらに驚いたことに、生の魚をガリガリと食べていた。漁船が近づくのを見ると、少女は海へ飛び込み、姿を隠してしまった。その日、怪事件が起こり、妙な噂が広まった。新作という青年が、鱶のタタリで死んだというのだ。新作の家では三代続いて鱶に息子が食い殺されていた。しかも不思議なことに、息子が鱶にやられるときには必ず妙な女が現われるという。浜辺にあがった新作の血のついたシャツを前に、村人達は恐怖におののいた。その夜。敏夫の愛犬ルウがけたたましく吠えた。敏夫は、仰天して立ちすくんだ。朝みた少女が、血のついたシャツの切れ端で身体をかくし、ペットに横たえていたのだ。驚く敏夫に少女は陽気に話しかけ、二人はすっかり仲良しになった。その夜、少女は敏夫のベッドで夜を過ごした。夜明け、少女に先導され海にもぐった敏夫は、海底の岩陰に、食いちぎられた新作の無残な死体を発見した。しかも巨大な鱶の黒い影が眼の前をよぎるのを見て、恐怖の叫びをあげた。 敏夫の報せで村は大騒ぎになった。新作の父と兄にその場所を尋ねられたが、 少女に口止めされていた敏夫は「忘れた」と嘘をついた。しかし、少女を見た新作の祖父は、ワナワナと身体を震わせながら両眼をカッと見開いた…。

日本
製作:日活 配給:日活
1959
1959/9/13
モノクロ/76分/シネマスコープ・サイズ/6巻/2085m
日活
【神奈川県】丹沢山地
【千葉県】勝浦市(鵜原海岸)