女中のおヤエは朝から足を棒にして奉公先を探しまわっていたが、雇ってくれるところがない。というのも、一匹の黒猫を連れているからだ。その黒猫は、おヤエの前の奉公先の御隠居・菊乃婆さんの形見で、時価十万円もするダイヤを養育費代りに貰っているため捨てるわけにもいかず、おヤエを悩ませている。思案の挙句、バスケットを買い、その中に黒猫を隠して再び奉公先を探したところ、マンマと鍋山家へ就職することが出来た。鍋山家は真珠店の老舗だけに格式ばった家で、リエ夫人もやかまし屋だったが、おヤエは女中奉公に精を出した。或る日、女中風の桃子という娘と台所仕事に励んでいたおヤエは、不思議な出来ごとに出喰わした。ビールの栓が自然にはずれ、料理が消え、誰かが髪を引っぱり、水道の水がひとりでに出てくる。薄気味悪さに震えたおヤエは皿を落として割ってしまったが、驚いたのは桃子だった。その皿は鍋山家先祖伝来の家宝だったからだ。折悪くリエ夫人が現れオロオロするおヤエを、何故か桃子は庇った。実は桃子は鍋山家の主人・武之が芸者に生ませた娘で、日頃リエ夫人から冷い仕打ちを受けているのだった。桃子の身の上と優しい心根を知ったおヤエは、持前の義侠心を燃やし、桃子を新しい主人と仰ぐことに決めた。皿騒動が落着いてホッとしたのも束の間、今度は主人の武之に黒猫が見つかってしまったからさあ大変。主人はおヤエに猫を捨てることを命令した。なぜなら猫が屋敷内に一歩でも入ると異変が起きるというわけで、猫は鍋山家の御法度だったのだ…。