傷つける野獣
きずつけるやじゅう

一人の若い兇悪犯の必死の逃亡を追う息づまる刑事の追跡行に、犯人と姉、愛人との間に交わされる人間愛が巧みに絡みながら展開するサスペンス・アクション篇。

「白昼、横浜の銀行を襲った犯人が特急つばめで逃走し、銀座周辺に潜伏か?」との電光ニュースが流れた夕闇の迫るころ、警視庁の山本、木崎両刑事は深川方面へ急行していた。鑑識の結果、犯人の使用したピストルは5日前に殺害された大阪の刑事のものと一致。捜査本部は犯人を笠原利一と断定し、深川にある笠原の姉の家周辺に捜査陣を張ったのだ。しかし、虚しい日々が過ぎた。9才のとき戦争で両親を亡くした笠原は、叔父の家を飛び出すと自転車泥棒で少年刑務所入り。更生を誓ったが職がなく、再びグレてしまったのだ。そんな彼にも佐藤芳子との純愛だけは残っていたのだが、10日程前に何気なく姉と見たニュース映画の街頭録音で、一番欲しいものを聞かれ「お金」と答える貧乏な身なりの芳子を見て、大阪に飛んだ。麻薬ルートで稼ごうとしたのだが、それがバレて刑事を殺してしまったのだ。木崎刑事は芳子の割出しに寝食を忘れた。恋人の久保幸枝からの電話に苛立ちそうな自分を鎮め、Sホールで行われる音楽会への誘いに「行けたら行く」と返事をした。一方、芳子のアパートに潜んでいた笠原は、芳子の住所が洗われていることを察知して、麻薬を扱っている大森のヌード・スタジオに身を移した。しかし不安が疑惑を生み、芳子が密告するかも知れないと思うようになった笠原は、二人で何処かへ高飛びしようと考えた。会うのは人混みが良い。笠原は、客引きが持っていた音楽会の入場券を手に入れると、芳子へ電報を打たせた。捜査は意外なところから糸口が見つかった。麻楽患者だったこの客引きが禁断症状で捕まった果て一切を喋ったのだ。しかし、Sホールという場所は難物だ。大勢の観客にまぎれた犯人はピストルを持っている。張り込んだ刑事たちが途方に暮れたその時、探していた芳子がホールの階段を上って来た。飛びつきたい衝動を押えた木崎の前を通り過ぎた芳子は、ホール隣のパーラーへ入り、Sホールの音楽会を中継するテレビを見つめた…。

日本
製作:日活 配給:日活
1959
1959/4/1
モノクロ/10巻/2323m/85分/シネマスコープ・サイズ
日活
【東京都】千代田区(東京駅丸の内口、東京駅9番線ホーム・入線する特急「つばめ」、九段)/品川区(品川駅ホーム・通過する特急「つばめ」)/江東区(深川)/新宿区(新宿通り伊勢丹・三越を臨む俯瞰、新宿駅西口・京王電車改札付近、東大久保1-464街頭、日本青年館)/北区(田端)/狛江市(多摩川土手)
【神奈川県】横浜市(横浜港、横浜駅前、横浜駅7番線ホーム・発車する特急「つばめ」)