混血少女が混血なるが故に母の愛を得られぬだろうか、大人達のヒューマニズムを鋭く衝きつつ描く感動の大作。
「うわァ!サリーじゃないの!?どうやって日本まで跳び越えて来たのさあ」。びっくりするオンリーさんのユリに飛びつくと、サクラは初めて涙を見せた。黒い肌の頬に水晶のような涙がキラキラ光って流れた。苦しかったアメリカの生活、淋しかった長い航路…サクラは思い切り泣いた。混血児の東サクラは、横浜の混血孤児収容所“聖愛恵ホーム”から黒人の家庭に引き取られてアメリカへ渡っていた。しかし、そこでの生活は惨めなものだった。黒人の養父母はサクラを牛馬のように使い愛情のかけらすら見せなかった。まだいたいけな少女のサクラにとって母親の愛情に甘えられない生活は耐えられないものだった。「マミーに逢いたい。日本にいる本当のマミーに逢いたい」そう思うとサクラは矢も楯もたまらずフランスの貨物船で密航し、単身何千里も離れた日本に帰ってきてしまったのだった。サクラは横浜へ着くとまっすぐアメリカで親切にしてくれたユリの家へやってきたが彼女の現在の夫が白人で、黒人を毛嫌いすると聞いては落ち着いてユリの家に居続けるわけにもいかなかった…。