鎮まりかえった深夜の繁華街にはつめたい風が吹きまくり、置き忘れられたように点滅するネオンは、一層、その空しさをかきたてるようだ。と、突如、冷えた空気をつん裂くかのごとく鳴り響き出したベルの音――それは一軒の映画館のベルだ。名刑事といわれる河上刑事は、やっと危篤状態を脱した一人息子を病院に見舞い、付ききりで看病している妻をいたわっていたところだったが、この事件お知らせる電話に立ち上がると、緊張した足取りで現場に急行した。被害者は一人、映画館の常番を勤める老人が瀕死の口をあけ、かすかに喉を鳴らした。臨床尋問する河上は、その声にならぬ声が「マツ……ウラ……」と言っているのを僅かに聞くと「松浦だね?映写技師の、見習いの…松浦だね?」と聞き返す。老人はこれが聞こえたのか、ゆっくりうなずくとがっくりと絶命した。主任刑事、鑑識課員らの出動によって、直ちに松浦進の下宿に家宅捜索の手が打たれ、指紋が犯行現場のものと一致することが確認されるや、松浦の指名手配が決まった…。