東北の一漁港、小名浜港――数隻の漁船が協力して網を上げている。絞られた網の中には銀鱗が躍る。掛け声も勇ましく働く船方達にまじり、キビキビ指図する若い漁労長江上晃一は、ふと外洋から近づいて来る大型漁船に眼を止めた。「あっ、開運丸だ。庄吉が一年ぶりで帰って来たんだな」彼の頬に微笑が浮かんだ。晃一の父、藤兵衛は死んだ親友の息子庄吉を引き取り、晃一と実の兄弟のようにして、愛しみ育てて来た。だが、庄吉は成人すると藤兵衛の好意に甘えるのを嫌って、他所に働きに出ていた。老船長徳さんの許しを得ると、庄吉は早速漁業組合事務所に駈けつけた。幼なじみの美代に会うためである。二人は仲良く語らいながら造船場へ行った。美代の兄で船大工の春雄は、陽気に鼻唄を唄いながら槌打つ手も休めず働いていた。「今夜はお祭りだからね。櫓の上で歌う時の練習さ」。その宵、踊りの輪から離れ波打ち際に美代を誘った庄吉は初めて愛を打ち明けたのだが…。