小さな衝動がやがて大きなうねりとなり、激流のような愛欲の渦に誰もが呑み込まれていく。男女の生態を赤裸々にえぐり出した異色の文芸大作。
作家の清水谷は妻でモデルの吟子と二人暮らし。朝早く、そんな彼の書斎へ小遣いの無心に現れたのは母の浦子だった。泊まりで熱海に旅行したいのだと言う。いつもの様に清水谷が金を渡して母を帰すと、吟子がいつの間にか起きてそれを見ていた。「お義母さん、誰と旅行するのかしら」吟子は不満を隠さない。浦子はかつて男のために子供を捨て、その息子が小説家として名を上げた時に母親として名乗り出た過去があった。今は未亡人である。清水谷は「母親に小遣いをあげられて満足しているよ」と温かくかばってやるのだった。その日の午後、宇都宮から上京してきた妹、桃子が訪ねてきた。その理由が恋愛相談だったことに清水谷は驚愕した。桃子には夫も子供もいたからだ。一方、熱海の浦子は布施問屋の主人である平川との久しぶりの逢瀬に情欲を燃やしていた。しかし後日、その平川はモデルのスポンサーの関係で吟子と会い、その若く美しい身体に新たな欲望を感じ始めていた。吟子も仕事のためならと、満更でもなかった。そうして清水谷の周りで男女の関係が複雑にもつれていき、彼はそれを煩わしく思い、仕事で利用していた那須高原のホテルへ向かった。彼はそこで働く未亡人に惹かれ、彼もまた抗えぬ愛欲の連鎖に吞み込まれていくのだった。