国際麻薬密輸団は、夜の海のごとく巨大な組織を持ち、夜の海のごとく闇に包まれた底知れぬ不気味な存在である。その麻薬の白いジャングルに挑む税関吏は、報われるところが少なく、危険のみ大きな地味な仕事である。そして今日も又一人の税関吏が溺死体となって浮かび上がった。しかし多数の係官の中には金の誘惑に負けて悪の道に堕ちる者もいる。この男の場合も税官吏でありながら密輸団の手先となり、仲間割れから殺されたのだ。その死体が引き上げられている頃、神戸港に香港からデンマーク船が着いて、五千万円に当る多量の麻薬が発見され押収された。この前例を見ない多量の麻薬に当局は緊張し、早速税関、水上警察、海上保安庁、県庁麻薬取締官等による合同会議が開かれた。これほど多量の麻薬を動かす組織を探り出す必要があった。その為には、この麻薬を餌に密輸団の中に入り込んで組織を突き止める囮捜査が必要だと会議は結論付けた。ところが生命の危険をはらんだこの仕事を誰にやらせるか…。会議は停頓したが、その時税関審理課長の頭にふと一人の男が浮かんだ。殺された税官吏と密輸の片棒を担ぎ逮捕状が出ている男、税官吏の高木だった…。