酒場や小料理店が雑然と建混む、ここは上野の裏通り――画家を志し青森の片田舎から遥々、東京へ出て来たハンサムで芸術家肌の滝本は似顔絵描きをやって日々の糧を稼いでいたが、バーの女給ふみ子に一目惚れされてしまった。滝本と同じ簡易ホテル「白楽荘」に住むキャバレーの踊子光子もまた、彼に夢中である。客から余分にチップを貰った時など、養父の岩見の眼を盗んで、こっそりその金を滝本の所へカンバスを買う足しにと持って来るのである。テキ屋の元締めをしている岩見は、孤児だった光子を育て上げたことを口実に、光子の稼ぎを根こそぎ巻き上げてしまうのである。因業な親爺で、岩見の乾分の憲、松公、三公たちも、この親分にはホトホト愛想をつかしていた。滝本と同室に住んでいる淳吉は、やはり青森から歌手を志して出て来た青年で、昼間は食堂のコックをやり、夜はこつこつと歌の勉強をしている気のいい男で、目下ホテルの管理人の娘花子とアツアツの仲である。ある朝、滝本と淳吉の財布が何者かに盗まれ、ホテル中大騒ぎになったが、ちょっと凄みのあるヤクザの安川が、ゲイボーイの清州をくさいと睨み、締め上げて二人の財布を取り返したことから面倒なことがはじまった…。