信州の空は今日も碧々と澄みきって、山なみに囲まれた広い牧場にのどかな初夏の陽ざしがさんさんと降りそそいでいる。園部由美は、貧しいために修学旅行に行けなかった親友の雅江に、東京からのお土産を届けた。その時バスを降りて、田圃道をやって来る若い女性を見てハッとした。由美もファンの一人で修学旅行のときに舞台で見た花形スター・マリー美咲にそっくりだったからだ。しかし、彼女は城山高校に赴任するために東京からこの田舎町に着いたばかりの藤村悠子だったのだ。それから数日後、悠子は由美たちの三年A組を担当することに決まった。三年A組は先生仲間でいわゆる手のつけられないクラスといわれていた。石松とか左膳とか渾名のある暴れん坊揃いで、ことに由美という女の子は山猫と呼ばれる程だから気をつけなさいと、前の担任である勝山先生から悠子は注意されたが、その日早速彼女は、“マリー先生”と由美に渾名をつけられてしまった。しかし悠子は由美のハキハキした明るい性質をとても好ましいと思うのだった。