日置栄子はますます女あさりが公然と募る夫陽造の余りに身勝手な好色の生活にこれ以上耐え切れぬ口惜しさと侮辱を感じた。陽造は明和化工の社長だが、陽造にとって、栄子の魅力は一千万円に相当する親譲りの株券なのだ。栄子はこういう夫を見返してやりたかった。ある日憂さ晴らしに出かけたゴルフ場で知り合った中年紳士が、「マダムミキ」のデザイナー・早川彰だと知ると、栄子は意を決し、早川をある料亭に誘って陽造を見返す計画を相談した。その計画とは離婚と株券の返済要求であり、藪から棒のとてつもない相談に早川は面食らったが、執拗に迫られ知人の望月弁護士を紹介した。惜しみなく大金を手数料として投げ出す栄子を見て早川は内心驚いた。ニヤリと薄笑いを浮かべて望月は「緊密な関係になっても、絶対敵方に判らぬようやらなければ、離婚訴訟は失敗するぜ」と、早川の心を読み取ったかのように忠告した。早川には専属のカッター・里子という恋人がいた。弟の武雄と貧しい二人暮らしの里子は、その美貌にもまして純情な心の持ち主だった。ある夜、早川のアパートの部屋から灯が洩れているのに部屋に鍵がかかっていても、早川を疑うことを知らなかった…。