“男子志を立て、郷関を出ず……”野々宮晋輔は江戸っ子気質の快男児で、二十六才の今日まで童貞堅持を旨としている点からも分かるような純情青年である。このたび、虚偽と塵埃の都会を見捨てて信州は島崎藤村ゆかりの小諸の城下、聖心女学院の教師として勇躍赴任の途についた。汽車が碓氷峠にさしかかる頃、前の席の恋人らしい高村青年と葉山ユリの熱烈なラブシーンに遭遇、周章狼狽していると、派手なスタイルの芸者鈴代が乗り込んで来た。そして鈴代は晋輔に盛んにお色気を振りまく。そこへ鈴代の馴染みのチンピラやくざ辰公が通りかかったから大変、晋輔は辰公の無法な云いがかりに憤慨、あわや決闘となったが、ひとまず勝負は小諸に着いてから…ということでケリがついた。さて、小諸駅に着いてみると、駅頭には学校の教頭やPTA会長を始め、町の有力者達が出迎えていた。そのうえ料亭“藤川”で歓迎の饗応を受けることになり、厚遇に晋輔は痛く感激したが、実はこれが人違い。女学院の敷地内に温泉場を作って一儲けしようと企む町のボス達が、地質調査のため東京から招いた野々宮大学教授との野々宮違いだった。ボス達が気が付いた時にはすでに遅く、晋輔は鈴代と相合傘で料亭を後にした…。