大仏次郎名作の映画化、肉親愛に満たされず、スターの座に失望、打算と因襲の結婚に破れ、波乱の人生を辿る月子の奇しき運命。
元外交官で、今はいくつかの会社の顧問をしている門野礼介とその妾お幸との間に生まれた大内月子は、23歳になって母に生き写しの美貌に育った。生来勝気な彼女は、礼介の妻富子が冷たく支配する門野家の空気を嫌い、父の温情に感謝しつつも自活の道を求めて新劇研究生となった。自らの道を開拓しようと決意した月子は、箱根のホテルで新映の成田撮影所長と木津プロデューサーから映画界入りを勧められたとき、女優は商品だと割り切りつつ、いつでも辞められる条件で承諾した。その夜、月子はホテルの酒場で六笠大助という青年と出会った。翌日帰京の途中でも彼に会ったが磊落で屈託のない大助に何となく興味を覚えた。ほどなく月子は大スター佐田春美の相手役として初めての撮影に臨んだ。熱心な月子の評判に春美の機嫌は悪く、表面は冷静を装いながらも激しく嫉妬していた。そんなある日、大助が雑誌「文苑」の特集記事の取材で撮影所を訪れ、月子に再会した。二人は初めてお互いの正体を知ったが、大助は健全な俳優としての成長を月子に望み大いに語り合うのだった。そして、映画「影」が封切られた。礼介の友人小村見山は映画を観て月子の逞しさを称賛し、礼介も感慨無量であったが妻の富子は月子が映画女優になったことを蔑み、礼介と彼の友人で青年社長の脇順三を誘って映画を観た帰りにも礼介に月子の結婚をすすめるのだった。そして月子を江の島の呼び寄せ、順三に会わせるのだった。