村井和夫は両親そろった中流家庭に幸福な少年時代をすごして来たし、今も和やかに不自由ない生活を送っている。それなのに近頃どうも親たちに親しめない。両親と口をきくといらいらしてしまい、何だか両親とは別の世界に住んでいるような気がしてならない。そんなだから友達たちと夏休みのキャンプを計画する時の和男は明るい青年なのだが、家の中では返事もしない不愛想な子供になってしまっていた。そんなある日の昼下り、和夫が静かな湘南の海岸の砂丘で風景画を描いていると、葉村ユリが近づいてきた。ユリは和夫と同じ学校の生徒で、その美しい若さは学校でも一際目立っていたが、和夫とは普段話したこともない相手だ。髪の毛が和夫の頬に触れるほど顔を寄せてのぞき込むユリに、和夫ははじめ固くなったが、いたずらっぽく話しかけるユリの表情は素直で愛らしく、いつしか二人の心はすっかり打ちとけあっていた。夕暮れになり、葉村家では父、母が食卓をはさんで何か思案顔、やはりユリもこの頃妙に反抗的になり、ことごとに逆らって親たちの心を痛めていたのである…。