野村雪子のヒット曲に乗せて素朴な漁村に展開する純情娘と青年船員の恋物語と母親の愛情が切々と胸迫る抒情ドラマ
白い雲が流れる紺青の湖に点々と浮かぶ漁船の群―。今日も父親の大蔵と一緒に櫓を漕ぐ娘の村岡ふみ子の姿が目立って初々しい。そのふみ子の眼は白い波のしぶきを立てて走っている遊覧船に吸い付けられている。機関士の秋山雄二が窓からしきりに手を振っているのだ。その遊覧船には周囲の風景を感慨深げに眺めている旅回りの中村一座の女座長歌扇が乗っていた。彼女は20年前に性格が合わなかった夫と別れ、可愛い女の子を置いて東京に行ったのだが、四十を過ぎて一座のマネージャーで今では彼女の夫の善七に、せめて陰ながら娘の成長ぶりを見たいとしみじみ語るのだった。いっぽう、若い漁師の仙吉とふみ子を一緒にしたいと思っている大蔵はある日仙吉から、ふみ子には船員の恋人がいると聞いて激怒した。妻だったおしげが間違いを起こして出奔した男と同じ職業を持つ雄二に、男手一つで育て上げてきた最愛の娘を何としてもやりたくなかったのだ。