昭和十八年――由美子は叔母にあたる葵流舞踊の師匠もよの家に身を寄せていたが、初夏のある頃、友達と買い出しを兼ねて伊豆の高原をハイキングした時、大学生の宏と知り合った。その後、東京で強制疎開の家屋取り壊し作業で勤労奉仕中の宏と計らずも再会した由美子は、彼を叔母にも紹介した。二人の仲は急速に発展し、由美子の卒業式の日、宏の下宿に立ち寄った彼女は、宏の愛の告白に喜びで胸を震わせたのだった。しかし、戦況が悪化し、学徒動員令が下るや、宏もまた戦の庭に召し出された。一旦、帰郷した宏を追って塩釜を訪れた由美子は、乙女ヶ淵の潮吹雪に吹かれながら、愛の激情と別離の悲しみに、深く宏の胸に身を埋めたのだった…。やがて、伊豆湯ヶ野へ叔母と共に疎開した由美子は、そこで宏の子供美奈子を産んだ。だが、出産の直後、宏の戦死通知を受け取ったもよは、若い由美子の為を思い、彼女には死産だったと偽り、美奈子を里子に出した。やがて、終戦を迎え、東京のさるマーケットで汁粉屋を始めた由美子ともよは、親切な隣人のおでん屋の源吉に何くれと世話を受けながら生活していた…。